冬月(深澤辰哉)は生きている? モラハラ夫の「父親放棄宣言」がもたらすものは 『わたしの宝物』2話
「母」や「母性」の神格化が描かれる?
2話では、「母の凄さ」や「母性」を神格化するようなセリフが多く見受けられたのも印象深い。 美羽が会社で働いていたころの後輩で、現在も年の離れた親友として交流のある小森真琴(恒松祐里)は、念願の雑貨屋オープンを果たしたシングルマザー。息子を見ながら「あの子さえいれば、どんなつらいことがあっても乗り越えられます」と感じ入る。命を育てることに責任と誇りを持ち、懸命に生活を立てようとする一人の女性の姿が、健気(けなげ)に映る。 しかし、「母って強いです」と発言する真琴や、美羽が自身の母・夏野かずみ(多岐川裕美)に「お母さんって、すごいなって」と伝えるセリフには、素直に共感しにくい、ある種の押し付けがましさがあると思えてならない。 「托卵」がテーマのドラマである以上、産みの親・育ての親といった関係性や、血の繋がりがもたらす齟齬(そご)について描かずにはいられないだろう。だからこそ、産みの親こそが真の親であり、血縁関係こそが“母の強さ”に直結すると感じられるような描写は、リスクが伴うのではないだろうか。 2話の終盤、かずみが「違うの、全然すごくない」「働きっぱなしで一人ぼっちにさせて。それでも美羽は、つらいときでも笑って、私を笑顔にしてくれたでしょ」と娘の美羽に伝えるシーンは、それまで母性の神格化に偏っていきそうな作品のイメージが中立に戻り、適正なバランスが保たれたような心地にもなった。 それと同時に、この作品の「母」や「母性」の描き方について、視聴する側も慎重に向き合わなければならない、と襟を正す必要にも迫られた。
『わたしの宝物』 フジ系木曜22時~ 出演:松本若菜、田中圭、深澤辰哉、さとうほなみ、恒松祐里、多岐川裕美、北村一輝ほか 脚本:市川貴幸 主題歌:野田愛実『明日』 プロデュース:三竿玲子 演出:三橋利行(FILM)、楢木野礼、林徹
文:北村 有