ガルクラ総研③:立ち塞がるハードルにどう挑んだ?監督と制作Pに訊く「ガールズバンドクライ」アニメ制作秘話
今年4月より放送がスタートし、空前の盛り上がりを見せたテレビアニメ『ガールズバンドクライ』。東映アニメーションによるオリジナル作品として展開された本作はフル3DCGによる映像やストーリーなどが注目を集め、国内外で大きな話題になっている。 【動画】「ガルクラ」のできるまでを辿ったメイキング映像が公開中&過去2回の特集リンクあり 今回、弊誌ではそんなテレビアニメ『ガールズバンドクライ』へのインタビュー特集企画を全3回にて展開中。初回の花田十輝氏、第2回の作中バンド「トゲナシトゲアリ」に続く最終回はスタッフインタビュー第2弾と題し、制作プロデューサーの平山理志氏と監督・シリーズディレクターの酒井和男氏が登場。 プロジェクトの立ち上げから関わる中核のスタッフ陣として、どのように企画が動いたのか、3DCGを選んだワケ、キャスト選出の裏話から今後の期待までをたっぷりと伺った。
様々な技術的ハードルが立ち塞がった作品
―まず、どういった形で企画が立ち上がったのかなという経緯のところからお伺いできればと思います。 平山:僕は2019年の7に東映アニメーションに入社して、会社として オリジナルアニメを作りましょうというところで、酒井さんと花田さん(脚本家・花田十輝さん)にお声がけして 企画がスタートしました 。 ―酒井監督がプロジェクトの概要というのを初めて伺ったときは、どんな感想や印象を持たれましたか。 酒井:最初はやっぱりちょっと難しい作品になるだろうなと思ってまして。まずは何をテーマとしていくかという話はスタッフとも色々と話し合って、案の定、難産というか簡単ではなかったと(笑) ―テーマとしてガールズバンドになったのはどういった経緯でしたか? 平山:最初はバンドものっていうのも決まってなくて、色々なパターンを想定してシミュレーションしていたんですけど、花田さんから上京する女の子でバンドものをやりたいと提案されたんです。それを受けて、自分たちの方でも検討した結果、「それで行こう!」となりました。ただ、先程、酒井さんが難しいとおっしゃった部分なんですが、バンドモノって技術的なハードルがかなり高くて…。 酒井:まず、CGでやるっていうのは決まっていたので、自分たちの経験をフルに生かして、CGの特性が光るストーリー作りというか、テーマ作りを進めていきました。ただ、どうしてもお客さんが本当にそれを見て楽しいかとか、どうしても完成形が見えずにちょっと八方塞がりになった時期もありました。そこで、花田さんからの提案もあって、方向性が定まったという感じです。とにかく、3Dであることは絶対条件で、そこだけは譲れませんでした。 ―今回のキャストについて、楽器演奏ができる声優を探すのではなく、一般公募にしたという点もお伺いしたいです。 平山:バンドアニメを作るからには、音楽がちゃんとできないといけないというところで、音楽に制限を設けられないなと思ったんです。ちゃんとしたバンドアニメ を作るからには、ちゃんと演奏できて歌える人じゃなきゃいけない。音楽が最優先となると、声優さんにお願いするというのは、そもそも前提が違うのではないかと思いました。声優さんは声の演技のプロであって 、歌や楽器についてのプロではないので、ミュージシャンとして活動している方々にやってもらうのが筋かなと思ったんです。 ―アニメ放映に先駆けて劇中のバンド「トゲナシトゲアリ」(以下、「トゲトゲ」)のアーティスト活動がスタートしましたね。 平山:まず、ミュージックビデオを2つリリースして 、その後、キャストも務めるバンドメンバーを公開する形でスタートしました。オリジナルアニメなので、放映前にどんな作品であるかをお客さんに少しでも知ってもらいたかったんです。お客さんに先に世界観の情報をいくつも届けて、こういうアニメになるんじゃないかという予感を持ってもらった上で、観てもらおうと。バンド活動も同様で、「この人たちが声優をやるんだ」と知ってもらうという狙いがありました。その過程で少しずつ 盛り上がっていっている 手応えはあって、おかげさまで徐々にファン も増えてきているのは感じていました。 ―ちなみに、バンド活動が始まった際にはもうテレビアニメ は完成していたんでしょうか? 平山:実は全く完成していなかったんです(笑) ―バンド活動の盛り上がりが、テレビアニメ 制作の方にも何かしら影響を与えたようなところもありましたか? 平山:シナリオが全話完成したのが2021年の4月なんです。それ以降、ずっとCG ひたすら作り続けていたんですね。プロジェクトを公開したのが2023年の5月だったんですけど、このタイミングでは絵コンテも第10話「ワンダーフォーゲル」くらいまで出来てたかな。第10話まではバンド活動の結果を物理的に 反映できないという状況で、第11話「世界のまん中」以降はプロジェクトを公開 した後だったので、ここに関しては少し影響があったという感じですよね。 酒井:スケジュールだけで話せば、順調に見えてるんですけど、現場は結構、えらいことになっていたんです。アニメーション制作が始まった当初は、まだキャストも決まってなくて、映像が出来上がってからセリフを入れる流れになっていました。そのうえ、声優さんがやるとしても、かなり難しい感じのアフレコになる部分もあって、ハードルは高かったです。 ―今回、声優を担当されたバンドメンバーの方々は、全員がアフレコ初挑戦ということでしたね。 酒井:最初のMVを作った時点でまメンバー決まっていなかったんですよね。結局、仮歌でアニメーション映像を作る ことになって。さっき平山さんが語った通り、音楽で嘘をつけないので声優じゃなくてプロのミュージシャンにやってもらうしかないと思いました。で、そこの部分を照らし合わせてみると、メンバーはアフレコ が初挑戦で台本の読み方も知らない状態なので、完成形が全く読めなかった。 音響監督の三好さん(三好慶一郎氏)にも、かなり頑張ってもらったんですが、本当はもっと早い段階でメンバーに色々 教える予定だったんですよね。ただ、オーディションもかなり難航して 、アフレコが始まるまでの準備期間はかなりタイトだったと思います。ミュージシャンとしてプロなうえに、声優もできる人なんてそうそういないですから。 平山:メンバーの皆さんは 未経験者なわけで,アフレコは全くできるわけもなく…。そこで、まずは三好さんの方で ワークショップをやっていただいて、「演技とは?」みたいなところから、1ヶ月近くかけてじっくり声の演技に向き合ってもらいました。回数的には多くはないですが、スケジュールの合間を縫って、感情の表現から、声の出し 方から、丁寧に学んでいただ来ました 。 ―アフレコ未経験の人に一から教えるとなると、1ヶ月でもかなり時間的には少ない印象ですが、違和感があまりなかったのも驚きです。そう考えると、もともとメンバーの方々のポテンシャルも高かったんでしょうか。 酒井:音響監督の三好さんは海外の映画などの吹き替えもよく担当されていて、アフレコ経験が少ない人を指導するという点で、経験値が高かったのも大きいです。今回は三好さんの発案でガイドを作るということを行いました。プロの声優さんに一回喋っていただいて、それを実際に聞いてもらって、抑揚などの発声の仕方を自分の中で咀嚼してから、アフレコするというやり方です。今回に関しては、「ダイヤモンドダスト」(以下、「ダイダス」)のメンバーが、そのガイドを担当してくれました。 ―劇中のライバルバンドの声優さん達が、ガイドを担当しているのはちょっと胸が熱くなるエピソードですね。 酒井:「トゲトゲ」の方が一人多いので別の方も入っていますが、仁菜(主人公・井芹仁菜)のガイドは 松岡美里さん(「ダイダス」のベース・ナナ役)が担当してくれています。ただ、ガイドがあったとしても短期間でかなり上達しており懸命に取り組んでくれた努力の賜物だと思いますね。 ―キャストの方々にお伺いしたんですが、第8話「もしも君が泣くならば」で、初めて泣く演技があって、かなり難航したというお話を聞きました。 酒井:泣く演技はプロでも難しいと思うんですよね。それを、半年も訓練していない人たちがやるっていうのは、ものすごくハードルが高い。とても丁寧に気持ちを作ってもらって、すごく頑張ってくれたところです。声優に関して僕たちは非常に運が良かったと思います。