ガルクラ総研③:立ち塞がるハードルにどう挑んだ?監督と制作Pに訊く「ガールズバンドクライ」アニメ制作秘話
視聴者を飽きさせないための絵作り
―他に苦労された点はありますか? 平山:当初は2022年の秋に放映される予定だったんですよね。まさか、5年もかかるとは思っていなかったんです(笑)スケジュール的なところで苦労した点で言えば、新型コロナウィルスの影響もありました。単純に、東映アニメーションの全てのアニメ制作現場に影響が出たので、玉突き事故的に本作のスケジュールも遅れています。 ―外的な要因もあったんですね。 平山:他にも、挙げたらキリがないほど苦労した点はありますが、一番は酒井さんがおっしゃったようにお客さんを絶対に飽きさせないためにCGをどう工夫していくか、模索する作業でしょうね。 ―独特のCG表現としてキャラクターの感情が動く際、背後に線のようなものが沸き上がる表現がありますよね。こちらは、どのようにして思いついたのでしょうか。 酒井:2Dアニメと比べると3Dはどうしても表情が乏しく見えてしまうんです。その中で、感情の 動きどう表現しようかというところで、個人的に漫符はどうしても使いたくなかった。それは最初に決めていて、ああいったエフェクトを使ったらいいのではと、組み込んでいます。 ―注目して欲しいところやこだわった点はありますか? 平山:プロデューサーとしてはフルCGのオリジナル作品が放送までこぎつけたことが奇跡だと思っていて、もちろんスタッフ全員の努力や会社側のバックアップのおかげです。しかも、それがお客さんに受け入れてもらえたというのは本当にありがたいことで、そこが一番感慨深いところですね。 酒井:繰り返しになってしまうんですが、視聴者を飽きさせないというところで、こだわったところでしょうか。CGは表現を間違えると、ちょっと淡白で人形っぽく見えちゃうんです。でも、動きは生っぽいのでちょっと不気味になってしまうというか。その中で、キャラクターだけに情報を投げないで世界観を作りこむということですね。 ビジュアルディレクターの涌元トモタカさんと、CGディレクターの鄭さんにも色々と手伝ってもらった中で、第1話のラストの路上ライブシーンからものすごい反響があって、嬉しかったです。まぁ、それよりも「ギター持って転ぶなよ」って言われてたけど(笑) ―第1話で言えば、冒頭の新幹線のカメラワークもかなり引き込まれる表現だと感じました。 平山:第1話の冒頭の最初のシーンで、このアニメはこういうクオリティでやるぞっていうことをお客さんに知ってもらうためのシーンなんですよね。あの1カットのために、まず新幹線の室内をモデリングし、モブを新しく作りとすごい手間をかけたんですけれども、これはかけるべきであると、スタッフみんな で判断してやりました。そこをどう実現していくかというところで、酒井さんとCGディレクターの 鄭さんがずっと相談してましたよね。 酒井:まぁ、作業的な部分は絵コンテ描いただけだけどね(笑) 平山:第2話の仁菜の部屋のところもカメラワークとかかなりこだわっていて、ずっとこのクオリティで行けるのか、かなり議論していましたね。 ―その他にもシナリオ関連などで、苦労した点などはありますか? 酒井:実は「ダイダス」のボーカルで仁菜の友人であったヒナは、最初のシリーズ構成の中ではいなかったキャラクターなんですよ。 平山:第8話で「ダイダス」としっかり向き合うという流れから生まれて、シナリオに組み込まれたのは制作段階のかなり後半だったんです。仁菜と因縁のあるキャラクターなので、その段階でまた1話からシナリオを見直す必要が出てきました。そこから6話まで練り直して構成が詰まって、また再構成して第11話まで進めたら、またそこでも流れを考え直す必要が出てきてという感じで…。なので、最初は仁菜とヒナというライバル関係はなくて、「トゲトゲ」と「ダイヤモンドダスト」という対比構造しかなかったんですよね。その辺は、花田さんにもぜひ聞いて欲しいところです。 ―かなり紆余曲折があったんですね。 平山:酒井さんが全13話中、11話分の絵コンテを担当していただけたこともクオリティ向上という点で大きかった と思います。キャラクターの整合性、統一性を考えると、これも重要なポイントです。 ―舞台が川崎になったのはどういった経緯ですか? 酒井:音楽やバンドと親和性が高い場所に関しては一通り洗って、花田さんとも打ち合わせしたんですが、その中で川崎となりました。僕と平山さんは、あまり縁がないところだったんですが、花田さんが川崎にあるライブハウス「CLUB CITTA’」に通ってたりし たようで、土地勘があったんです。なので、僕らも一先ず行ってみようと思ったんですが、本当に面白くて懐の深い場所だなと。 平山:人も多くて、なんでもある街だなという印象ですよね。 酒井:彼女たちがここにいても、まったく違和感がないなという感じで、この辺りは花田さんの審美眼の賜物です。若さを感じる街で、非常にエネルギッシュなところなので、この作品のイメージにもピッタリでした。 平山:舞台設定が決まってからは、とにかく何度もロケハンして写真を大量に撮影しました。 ―実在の店舗も登場して、かなりリアリティがありますよね。牛丼のメイキングなども配信されていて、すごいこだわりだなと思いました。 平山:第5話「歌声よおこれ」で登場した居酒屋も、第1話で桃 香と仁菜が逃げ込んだ路地をロケハンしていた時に、偶然見つけて盛り込みました。酒井さんとどこがいいかなと相談しているところで、「あの時あった居酒屋はどうですか?」となったんです。ここなら、あの3人が来てもいいんじゃないかという居心地のいい 感じの店だったんですよね。 酒井:舞台設定というところで言えば、仁菜の故郷が熊本県なんですが、僕の出身地でもあるんですよね。これはもう、花田さんが「行け!」と言ってるんだろうなと(笑) 平山:カメラマンの方と酒井さんの二人でロケハンに行ってもらいましたね。 酒井:地元だったので、ここも描写にこだわって評価いただけたのは嬉しかったですね。 ―放送中もそうですが、放送後も大きな反響がありました。 平山:まずはホッとしました。 最終話まで完走してくれた人が多くて、本当によかったなと。 酒井:僕も同じですね。完成させられたことと、最後まで観て盛り上がってくれた人が本当に多かったと思います。 ―最終話は、気持ちを新たにしてバンドが再スタートするようなラストでしたが、この先どうなっていくのかという構想はありますか? 平山:まだ何も決まってないですね(笑)本当に、終わったばっかりで僕らも抜け殻状態なので…。ただ、1クールという制限がある中で、最大限、お客さんに楽しんでいただけるよう制作して評価をいただけたので、まだ作らせていただける のであれば当然やりたいところです。 ―先日、同じくガールズバンドをテーマにした「BanG Dream!」のリアルバンドである「MyGO!!!!!」との対バンライブも発表されましたね。 平山:バンドって対バン文化があるので、やります!(笑)ただ、内容に関しては、まだ色々準備を進めているところなので、今後の発表に期待していただければと思います。 ―最後に、ファンに向けてのメッセージや今後の意気込みなどをお伺いしたいと思います。 酒井:まずは、この作品を最後まで見守っていただいて本当にありがとうございます。放送前、放送中から楽しんでいただいて、放送後も盛り上がっていることに感謝したいです。これだけ反響もいただいているので、叶うならば次のステップに行けるように引き続き応援のほど、よろしくお願いします。 平山:同じくになりますが、最後までお付き合いいただいて本当にありがとうございました。また、プロデューサーとしてはこの作品が今後のCGアニメの発展に貢献して、世界に羽ばたいていってもらえたら嬉しいです。 ―ありがとうございました。 取材/文:東響希 構成/撮影/編集:編集統括 吉岡 協力:東映アニメーション ©東映アニメーション
東響希