プーチン氏、もっと早くにウクライナに侵攻すべきだったと 生中継の長時間記者会見で
トニー・ベネット BBCニュース(ロンドン) ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は19日、恒例の年末記者会見で、ロシアはウクライナへの全面侵攻をもっと早く開始し、戦争に対してもっと準備しておくべきだったと話した。 プーチン大統領は、「特別軍事作戦」と本人が呼ぶ2022年2月開始のウクライナ全面侵攻について、後から思えば「体系的に準備」しておくべきだったと述べた。 2014年にロシアはウクライナからクリミア半島を奪取し、親ロシア勢力がウクライナ東部で武力行使を開始。プーチン大統領がウクライナの首都キーウ奪取を目指したのは、その8年後のことだった。 19日の記者会見は4時間に及んだ。プーチン大統領は、失脚したシリアの指導者や、攻撃性を増したロシアの核ドクトリンといった話題のほか、バターの価格など国内問題についても言及した。 ■BBCが質問 「ウラジーミル・プーチンと今年の成果」と題されたこのイベントは、主要な国営テレビ各局が生中継した。 プーチン大統領は、併合したウクライナの一部を含むロシア連邦の地図が描かれた大きな青いスクリーンの前に登場した。 大統領は一般市民、外国人記者、年金受給者などからの質問に答えたが、どのやりとりも厳しく統制されたものだった。 BBCのスティーヴ・ローゼンバーグ・ロシア編集長はプーチン大統領に、25年前に前任のボリス・エリツィン元大統領が退任した時よりも、国の状態は良くなったと思うかと質問した。プーチン氏はこれに、ロシアが「主権」を取り戻したと答えた。 「それ以前にロシアに起きたあらゆることのせいで、この国は完全な主権喪失へと向かっていた」とプーチン氏は述べた。 ■シリアについて シリアのアサド政権崩壊について尋ねられたプーチン大統領は、クレムリン(ロシア大統領府)にとって敗北ではないと主張したものの、状況は「複雑」だと認めた。プーチン政権はバッシャール・アル・アサド前大統領を長年にわたり軍事的に支援した。 アサド氏は今月8日、反政府勢力が首都ダマスカスへ迫るなかで国外へ逃れ、モスクワへ避難したとされている。そのアサド氏についてプーチン氏は、まだ話をしていないが、近いうちに会談する予定だと述べた。 ロシア軍はシリアの地中海沿岸に2カ所、戦略的に重要な軍事基地を置いている。この2基地についてプーチン氏は、維持するためにシリアの新指導部と協議中だと説明。両基地を人道的目的のために使うこともロシアは視野に入れていると述べた。 ■アメリカと中国について アメリカのドナルド・トランプ次期大統領についてプーチン氏は、4年にわたり話をしていないものの、「彼が望むなら」会う用意があると述べた。 来年1月に就任するトランプ氏に比べて、自分は弱い立場にいるのではないかと指摘されると、プーチン氏は米作家マーク・トウェインの言葉を引用して「私の死に関する話は、かなり大げさに伝えられている」と述べ、会場の笑いを誘った。 東の隣国・中国については、両国関係は史上最高レベルで良好だとプーチン氏は述べ、ロシアと中国の両国は国際舞台で協調して動いているのだと話した。 「過去10年間で、(ロシアと中国の)関係のレベルと質は、両国のこれまでの歴史でかつてなかった状態に達した」とプーチン氏は評した。 ■ウクライナについて 4時間におよぶ会見の大部分は、ウクライナでの戦争を話題にした。戦争を終わらせるために「妥協する用意はある」と大統領は述べたものの、何を意味するのかは不明だった。 ロシア軍は「毎日」前線で前進していると大統領は述べ、ロシア兵を「英雄」と称賛した。 会見の最中には、ロシア西部クルスク州で「祖国のために戦っている」ロシア海兵隊から贈られたという署名入りの旗を披露し、カメラのためにそれを後ろで持つよう会場の参加者に指示した。 プーチン氏は、ロシアがウクライナから奪った地域での建設プロジェクトについても言及。ロシアが支援する勢力が2014年にウクライナ東部ルハンスク州の一部を奪取して以来、現地の道路の状態が大幅に改善されたと主張した。 11月に承認した「核抑止力の国家政策指針」(核ドクトリン)の変更について西側が「メッセージを受け取ったか」と、会場の参加者から質問が出ると、プーチン氏は「向こうに聞いてみるべきだ」と答えた。 ロシアの新しい核ドクトリンは、核保有国の支援を受けている国に対するロシア軍の核攻撃を認める内容。 つまり、ウクライナが通常兵器のミサイルのほか、ドローンや航空機などでロシアに大規模な攻撃を仕掛けた場合、ロシアにとってそれは核兵器による反撃の前提条件となる。ベラルーシへの攻撃や、ロシアの主権を深刻に脅かす脅威についても、同様に核兵器での対応が可能となる。 プーチン大統領はさらに、11月のウクライナ攻撃で使ったロシアの新しい中距離弾道ミサイル「オレシュニク」の能力を強調した。 プーチン氏は、「オレシュニク」の威力を試すためにロシアがこれをウクライナに向けて発射し、アメリカ製防空システムを使ってウクライナがそれを迎撃してみてはどうかとも提案した。 「オレシュニク」という名前の由来について質問されると、プーチン氏はかすかに笑いながら「正直いって、知らない。全くわからない」と答えた。 ■「主権」が主要なテーマ この日の長時間記者会見で、繰り返し登場したテーマは「ロシアの主権」だった。外国への依存度が減ったことが、ウクライナ侵攻の大きな成果の一つだと大統領は主張した。ただし、「外国パートナーへの依存度」が減ったのは、西側諸国による制裁の結果でもある。 大統領は経済が「安定している」と述べ、ドイツなどの諸外国よりもロシアの成長率の方が高いと指摘した。その一方で、インフレ率9.1%という数字は「心配なこと」だと認めた。 ロシア経済は実際には、過熱状態にある。「軍産複合体」とも呼ばれる軍事生産への依存度も、きわめて高い。 プーチン氏はこの日の会見で、若者が住宅ローン借り入れに苦労していることや、電話詐欺の問題など、さまざまな国内問題についても質問に答えた。 (英語記事 I should have invaded Ukraine earlier, Putin tells Russians in TV marathon )
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