村田諒太と最後に戦った男・竹迫司登が戦慄の92秒TKOで日本ミドル級新王者
日本ミドル級タイトルマッチが3日、川崎の「カルッツかわさき」で行われ、同級1位の竹迫司登(26、ワールドスポーツ)が王者の西田光(30、川崎新田)を1回1分32秒、右ストレートでキャンバスに沈めてTKO勝利、新王者となった。竹迫は2試合連続の1ラウンドTKO勝利で8戦8勝8KOとなった。 試合前の控え室。 「痛え!」 ウォーミングアップのミットを持っていた藤原俊志トレーナーが悲鳴を上げて、手をぶるんぶるんと振った。竹迫のパンチは凄まじくキレていた。 「このパンチを受け続けて10ラウンド持つ奴がいるのかな?」 誰かが言った。 2度目の防衛戦を迎える西田は、26戦して一度もKO負けのないタフガイである。しかも敵地。不安要素はあった。チャンピオンメーカーでもある藤原トレーナーが竹迫に問う。 「リングに上るときはチャレンジャー。下りるときはチャンピオンだぞ?」 竹迫がうなづく。 「行けると思ったら、後のことを考えずに行け!」 この言葉が、わずか数分後に金言となって竹迫の心に響くとは誰が考えただろう。 「試合開始直前に、レフェリーの注意を聞くときに、相手の目を見たら、にらみつけて目をそらさなかった。これは、相当気合が入っているなと思った。こっちも気合が入った」 タイトル初挑戦だと言うのに竹迫の手数が軽い。左ジャブが多く出た。 「左を多く出すというのを課題にしていた」 西田も負けずに左のジャブ。いわゆる左の差し合いでは西田が勝っていた。 この先の見当もつかないファーストコンタクトである。 ただし、あの左のボディブローが炸裂するまでは。 竹迫は西田の目線が左のグローブにあることを見逃さなかった。 「上のパンチを警戒していたので下は当たると思った」 前試合は、右のストレート一発で1ラウンドTKOしている。西田に、その残像は残ったはずである。 だが、竹迫陣営が勝負にきたのは、そのパンチではなかったのである。 突き上げるような右のアッパーからすぐさま左ボディを横殴りに決めた。 西田の腰がすこしだけ折れた。 再び同じコンビネーションを仕掛ける。 捨てパンチの右のアッパーで体が浮いた西田のボディはがら空きだった。そこにまた左のボディブローをめりこませると「うっ」と鈍い声を漏らした西田の体勢が崩れ、よろよろと後ずさりした。 蘇ったのは藤原トレーナーの言葉。 臆さない。怒涛のラッシュだ。 かがんだ西田のテンプルに右ストレートが打ち下ろされると、王者は倒れた。リングのエプロンに頭を出して仰向けになった西田を見るや福地レフェリーはカウントを取らずにTKOを宣言した。 戦慄のわずか92秒での王者交代劇である。 しかも、2試合連続の1ラウンドTKO勝利、レコードは8戦8勝8KOとなった。 「狙っていないですよ。あそこで倒れるとは思っていなかった。ただ気持ちで負けへんようにとだけ」 興奮冷めやらない竹迫がメディアに囲まれていると、「さっきは朦朧として、挨拶もできなかったから」と、元王者の西田がやってきた。 「めちゃくちゃ強かった。これからも頑張ってくれ」 グッドルーザーである。