新アンテナで道路沿いにテラヘルツ無線エリアを構築、6G時代に向けたソフトバンクの実証実験を見学
■約140mの直線道路をエリア化、受信電力的にはまだ余裕がある? 記者らに公開された実証実験の環境としては、ソフトバンク本社付近の直線道路上にかかる歩道橋の上に送信機を設置し、受信機を乗せたバンが約30km/hでその下を通過し走っていくという状況。5G NRの信号を300GHzに変換して送受信し、受信側では商用5G環境でも用いられるエリア測定器を用いて走行地点ごとの受信電力を記録していく。
テラヘルツ通信が実現し得るユースケースとしてはこれまで、送受信ともにアンテナが固定された環境、たとえば基地局の無線バックホール回線としての利用などが想定されてきた。先述の通り指向性が極めて強く、基地局から見下ろすように人が持ち歩く携帯端末に向けて広く届けるのはまだ難しい。 では、今回はなぜ「まっすぐ走り去っていく車」という限定的な相手とはいえ移動体通信が可能になったのかというと、基地局側・端末側の両方のアンテナに工夫がある。
航空レーダーで利用されているコセカント2乗ビームの特性を応用したもので、これは高低差のある送受信アンテナの水平距離にかかわらず、基地局と端末それぞれの受信電力が一定となる特性がある。そのままでは特殊なアンテナ構成が必要で移動体通信への転用は難しいが、基地局用と端末用それぞれのコカセントアンテナ(コセカント1乗ビーム特性)を独自開発し、併用することでコセカント2乗特性を得る。双方ともに1.5cmほどまで小型化を果たした。
ちなみに、「こういった特殊アンテナがあれば、テラヘルツ波に限らずミリ波の活用にも弾みが付きそうでは?」という疑問も素人ながらに浮かぶが、このサイズに収められるのは波長の短さによるもので(300GHzで波長1mm)、仮に5Gで使われているミリ波帯で同様のアンテナを作るとしたら20~30cmほどのサイズになってしまうそうだ。
さて、受信機を積んだ車に同乗し、受信電力が変化していく様子を見てみよう。送信機が設置された歩道橋の真下から発車し、この時点では圏外。車が動きだし、車両の後方に向けられたアンテナとそれを見下ろす基地局のアンテナが向き合う状況になると、突き当たりの信号を左折するまで直進している間は在圏状態が保たれていた。 現場は140mほどの直線道路だが、突き当たりに到達した時点で受信電力は-100dBmほど。一般的に-120dBm程度まではなんとか接続が保たれることを考えればまだ余裕があり、環境次第では数百メートル程度のもっと長いエリアを構築できるポテンシャルがある。 あくまで直線かつ街路樹や大型車両などの障害物が間に入らず見通しが効く前提にはなるが、一定の向きに移動する車両相手であればテラヘルツ通信によるエリア構築の可能性が示されたことは大きな一歩と言える。
細田頌翔