インバウンドは回復したが、商業施設は経営再建に閉店も…2024年の鹿児島経済を振り返る
2024年の鹿児島県内の経済は、新型コロナウイルス禍を経て、回復の動きが見られた。好調なインバウンド(訪日客)需要により、国際線の定期路線数やクルーズ船の寄港数はコロナ前の水準に戻る一方で、バスやタクシーでは運転手不足が続き、鉄道ではローカル線の在り方が問われた。賃上げによる所得環境の改善で個人消費が伸びる中、商業施設は周年や経営再建、閉店といった節目を迎えた。国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産への登録を機に、焼酎を海外へ売り出す機運が高まった。 【写真】雑草が覆う肥薩線の線路(手前)。すぐ先を吉都線の列車が走る=4月、湧水町
■山形屋が私的整理 創業270年を超える鹿児島市の山形屋が私的整理の一種「事業再生ADR」を申請し、5月28日に債権者の全17金融機関の合意を得て成立した。経営再建に向けた5年間の事業再生計画が始まった。 取引金融機関への負債総額は約360億円。債務の株式化(デット・エクイティ・スワップ、DES)で約40億円、返済が猶予される債務の劣後化(デット・デット・スワップ、DDS)で約70億円の金融支援を受ける。計画では、収益性向上や不動産売却、組織・人員体制のスリム化を計画の柱として、事業の見直しと財務健全化を図る。 6月には、計画を主導する山形屋ホールディングス(HD、同市)を設立。ガバナンス(組織統治)強化を目的に役員5人中3人は、メインバンクの鹿児島銀行や同行関連会社などから迎えた。創業家の岩元純吉氏は代表取締役社長、岩元修士氏は代表権のない取締役として経営陣に残った。 8月1日には、グループ24社を再編し15社まで整理。9月には来店促進などを目的にスタンプや友の会(七草会)と連携した決済機能を持つアプリを始めた。2号館5階で自社運営していた文具雑貨店は同月末で閉店し、10月1日には同フロアに文具専門店と家電量販店をオープンした。
岩元修士社長は12月10日、ADR成立後、初めて直接取材に応じ、「利益意識が高まった。前に進んでいる実感がある」と語った。同26日には、姶良市のサテライトショップ閉店、日南山形屋のギフトショップ化を明らかにした。 ■地域交通 ローカル線の将来を巡り、鉄路の議論が大きく加速した。JR九州は4月、2020年の豪雨被害で不通が続く肥薩線の八代-吉松間のうち、「川線」と呼ばれる八代-人吉間の鉄路復旧を国、熊本県と基本合意した。 同社は当初、復旧に慎重な姿勢だったが、観光振興や日常利用を盛り込んだ熊本県の復興案を評価した。一方で、人吉-吉松間の「山線」は川線とは切り離し別途協議する考えを示す。 8月には指宿枕崎線の指宿-枕崎間の在り方について、沿線自治体らと協議会を発足。鉄路存廃の前提や期限を設けず、当面は鉄路を生かした地域づくりを話し合う方針を決めた。11月末には、日南線の油津-志布志間も沿線自治体と議論する意向を発表した。