「関税は最も美しい言葉」トランプ氏の原風景は1980年代か 貿易戦争に身構える世界 「トランプ2.0」の衝撃④
特にニューヨークの不動産王だったトランプ氏にとって象徴的に映ったのが、89年の三菱地所によるロックフェラー・センターの買収だった。トランプ氏は当時台頭していた日本に脅威を覚え、「(日本製の)車や電化製品に20%の関税をかけるべきだ」と主張していたという。
一方で、関税を巡る一連の発言はトランプ流「ディール(取引)」の一環だとみる向きも多い。相手国から別の形で利益を引き出すための交渉術である。
というのも、関税は輸入する米国内の企業が負担する。トランプ氏の主張通り高関税をかければ、米国内の製品価格に転嫁され、物価が上昇すると考えられるからだ。
■価格転嫁で消費者の負担増
米ピーターソン国際経済研究所の調査では、米国の一般的な世帯に年間2600ドル(約40万円)超の追加負担がかかる恐れがある。実行されれば自国の経済不安が加速し、国民からの反発が強まりかねない。
だが、各国が懸念を深めているのは、トランプ氏ならそれでもやりかねない…という先行きの読めなさのためだ。
トランプ氏は諸外国が「まさか」と思う中で、「自国第一」主義の名の下に国際協調をほごにしてきた前歴を持つ。環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)から離脱し、一時は世界貿易機関(WTO)からの脱退も口にした。米国主導のインド太平洋経済枠組み(IPEF)にも不支持を表明。2国間交渉を重視し、多国間の枠組みには興味がないことの表れだ。
EUは米国への報復関税をかける物品リストを準備。各国は「トランプ2・0」の経済的リスクに備えている。国際通貨基金(IMF)は英BBC放送の取材に対し、「大規模な貿易戦争が再発すれば、世界経済の7%に打撃を与える可能性がある。これは仏独の経済規模を合わせた額だ」と指摘する。
世界経済の波乱要因としては、関税だけでなく、トランプ氏の外交・安全保障政策も不安視されている。
英調査会社オックスフォード・エコノミクスは「『トランプ2・0』の政策が以前と同様に予測不可能であれば、中東紛争が激化する可能性を否定できず、原油市場にも大きく波及するだろう」との見方を示す。その上で、「中東とウクライナのさらなる不安定化は、世界の経済成長に打撃を与える恐れがある」と警鐘を鳴らしている。(ワシントン 本間英士)