子育て支援「一人も見捨てない」 前兵庫県明石市長の泉さん、熊本市で講演 所得制限なし、民間と協力… 人口増を実現
独自の子育て支援策で人口増を実現し、人口減少に悩む全国の自治体から注目を集める兵庫県明石市。2011年から市長を3期12年務めた泉房穂さん（61）は、政策の根幹に「子どもはまちの未来。応援できない社会に未来はない」との考えを据えた。給食費の無償化などの各施策のほか、里親に預けられた子どもや貧困家庭の支援の必要性も強調する。 熊本の教育・子育て
明石市は神戸市に隣接するベッドタウンで、人口約30万人の中核市。市長に就任してすぐは、ほかの自治体と同じように人口減少や駅前の中心市街地の衰退、財政赤字に直面する「人気のないまち」だった。 現状打開に向けて打ち出したのは「子どもという未来を応援する。たった一人も見捨てない」との方針。在任中の12年間で子ども関連の予算を297億円に倍増した。「医療費や給食費の無償化といった関連施策にかかる予算は34億円。毎年度の市の予算が2千億円規模であることに比べると、1・7%に過ぎなかった。子どものために家計をやりくりするのと同じと考えれば、予算を確保できないわけがない」と語る。 担当部門の職員は約4倍に増やし、給食費や第2子以降の保育料、おむつ代を市独自で無償化するなどの負担軽減策に取り組んだ。世帯の所得で差が出ないよう、いずれも所得制限は設けていなかった。 「給料は増えず、税金や保険料、物価まで上がり、2人目や3人目の子ども、結婚すらちゅうちょしてしまう。（家庭の負担を減らして）使えるお金を増やすことで、明石市の経済が回り始めた」。泉さんの任期中、人口は29万人から30万6千人と約5・5%増えた。「市民が暮らしやすいまちをつくったら誰も出ていかなくなる。周りが憧れて住みに来る。人口増加は目的ではなく結果だ」と言い切る。市内では住宅の建設ラッシュや地価上昇にもつながったという。
貧困家庭や里親に預けられた子どもたちを支えるため、行政と民間との協力体制も整えた。子ども食堂を開く団体に対して場所の確保や助成金の支給に加え、保険料も負担して活動を支えた。行政ではできないことを民間にやってもらう代わりに、行政が積極的に支援する仕組みだ。 「里親を支援することが子どもの支援につながる」として、市の里親センターを新たに設置し、里親家庭の増加につなげた。 人口減少や過疎に直面する自治体は多いが、泉さんが語る解決策は明快だ。「それぞれのまちには良さや限界がある。限界を愚痴ってもしょうがない。可能性のあるものを何らかの方法で生かすために、知恵を絞っていくのが前向きだ」 泉さんは14日、認定NPO法人優里の会が県民交流館パレアで開いた「熊本市里親フォーラム」で講演し、市民ら約180人が聴いた。（横川千夏）
