『おむすび』制作陣が苦心した“あの頃”のリアル UFOキャッチャー&プリクラ撮影秘話
NHK連続テレビ小説『おむすび』が現在放送中。平成元年生まれの主人公・米田結(橋本環奈)が、どんなときでも自分らしさを大切にする“ギャル魂”を胸に、栄養士として人の心と未来を結んでいく“平成青春グラフィティ”。 【写真】あったかもしれない未来 ギャルメイクの真紀ちゃん(大島美優) 神戸編では、6歳の結(磯村アメリ)が『美少女戦士セーラームーン』に憧れ、歩(高松咲希)本の棚には『なかよし』『ちゃお』『りぼん』といった少女漫画がズラリと並ぶ。ほかにも劇中には当時を思わせる仕掛けが満載だが、こんなにも実在する名称が登場するNHKのドラマはかなり珍しい。 制作統括の宇佐川隆史は「物語の舞台となる“平成時代”はみなさんが覚えているので、描くのが大変だというのは、すべてのスタッフが覚悟していました」と打ち明ける。 「『ここはしっかりと本物でいきたい』というポイントを決めて、NHKだから難しいとか考えるよりも、まずは許可をしっかりと取って、本物にこだわるところはこだわることにしたんです。その結果、福岡の“若者の聖地”であった天神コアのフォルムを再現したり、当時の『なかよし』『ちゃお』『りぼん』をそのまま採用させて頂くというところに至りました。正直、簡単なことではありませんでしたが、スタッフが本当に頑張ってくれたと思います」 第29話では、ギャル姿の歩がクレーンゲームを眺めるシーンが描かれた。機種名こそ伏せられているが、クレーンがUFOの形をした、まさに「UFOキャッチャー」であることは一目瞭然。一方、2004年に登場するプリクラ「春花秋月」は、結と同じ時代を生きる人ならわかるであろう“ある機種”を想像させるが、こちらはあくまで架空のマシンとなっている。 「美術部の本気の“遊び”ですよね。あの時代のゲームセンターを描く上で、UFOキャッチャーはまず外せないだろうと。ただ、プリクラに限らずすべてを本当の固有名詞でやればいいというわけではなく、視聴者の方にあの頃の感覚にちゃんと戻ってもらう。そして、私たちの狙いや思いが伝わればいい、と思っています。プリクラに関しては何度も出てくるので、宣伝になる・ならないというところも含めて最終的な判断がありましたが、当時のUFOキャッチャーは『当時これが人気だったよね』と時代を現すもののひとつとして、美術部が苦労して用意してくれました」 視聴者の記憶に新しい時代だからこそ、ごまかしがきかず、許可取りや表現の調整などこれまでの朝ドラとは違った苦労を抱える本作。その一方で、誰もが覚えている時代を描くゆえのメリットもあったという。 「平成を描くのは本当に大変で、こんなにも“言うは易く行うは難し”という言葉が合うものはないと思っていましたが(笑)、逆に言うとその時代をスタッフも覚えているんですよね。ですから、『ここにどんなものを置いたら、平成という時代が表現できるのか』と自分の思い出を振り返りながら、楽しんでやってくれているのかなと思います」 さらに宇佐川は「実はこの前、SNSで『関西だから、高校の制服のリボン結びが少し下にある』というコメントを見かけて、『そうだったんだ』と。私の知らないところでも、スタッフ一人一人がこだわりを持って取り組んでくれているので、本当に頼もしいです。班には熱い人たちがたくさんいるので、その“思い出の集合体”が、ちゃんと端々に出ているのではないでしょうか」とスタッフへの信頼を語る。 「もちろん全部が全部というわけではありませんが、みなさんの心にどうすれば引っかかるかな、ということは念頭に置いています。『あの頃、自分はどうだったかな』と自分事として捉えてもらえるような仕掛けを絶えず一同で考えていますので、今後もぜひ楽しんでいただけたらと思います」 制作陣こだわりの造形によって、私たち視聴者を「ああ、そうだった」「懐かしい」と一瞬であの頃に引き戻してくれる『おむすび』。結や歩を通して、当時の自分に思いを馳せることができるのも、物語の大きな魅力といえそうだ。
nakamura omame