精液のついたティッシュを見ると安心する…「3浪ニートの息子」を探偵に監視させる母親の"異常な執着心"
■交友関係も管理され、精神的に追い詰められていた 幸也が小学校の高学年になるまでは、さえは仕事が忙しく、父親の方が家にいることが多かった。さえは、幸也の成績が芳しくないのは、父親が教育したせいだと主張する。父親がようやく定職に就くと、さえは仕事をパートに切り替えて、幸也の教育に力を入れるようになる。 「成績が悪いと、母からよく叩かれました。『父親にそっくりなクズ』とか、暴言も吐かれました。進路はすべて、母が決めるんです……。父は母の言いなりで、いつも見て見ぬふりです」 さえは、幸也の交友関係も厳しく管理しており、中学時代、さえは同級生の間で「うるさい母親」として有名だったという。幸也は、非行にすら走れないほど母親に雁字搦(がんじがら)めにされていたのだ。 「息子さんの引きこもりを解決してあげましょう」と、さえの下にはさまざまな団体が寄ってきて、多額の費用を請求されていた。しかし完全に資金が底をつくと、手のひらを返したように皆、さえから離れて行ってしまった。孤独になればなるほど、さえの行動はエスカレートし、息子を追い詰めていた。 「もう、疲れました……」 息子が引きこもってから5年を超える監視生活に、もはやさえの精神状態も限界に達しようとしていた。 ■異常行動の背景にある“過剰な家族バッシング” 私は父親を交え、家族で話をする機会を作った。さえの行動は確かに異常だが、父親の様子があまりに他人事であることに正直、呆れてしまった。さえは家庭で孤立しており、仕事を辞めてからは他人と接する機会もなく、自分の行動の異常性を認識することができなくなっていた。 幸也はしばらく、父親の海外勤務に同行することになり、帰国後、外国人が集うバーで働き始め、そこで知り合った女性と結婚した。 暴力やプライバシーの侵害など、他人に対して行えば犯罪になるようなことを子どもにしている親が、子どもに罪を犯してはならないと説いても全く説得力がない。異常な行動に出るまで親が追いつめられる背景には、世間からの誹謗中傷といった加害者家族に対する社会的制裁がある。ネット上に残る性犯罪者とその家族に向かられる罵詈雑言や屈辱的な表現は、たとえ直接自分に向けられることがなかったとしても、加害者家族を精神的に追い詰めている。 過剰なバッシングは家族にとって耐え難いプレッシャーとなっており、再犯抑止どころか犯罪を助長する悪循環となっていることにも理解が必要である。 ---------- 阿部 恭子(あべ・きょうこ) NPO法人World Open Heart理事長 東北大学大学院法学研究科博士課程前期修了(法学修士)。2008年大学院在籍中に、社会的差別と自殺の調査・研究を目的とした任意団体World Open Heartを設立。宮城県仙台市を拠点として、全国で初めて犯罪加害者家族を対象とした各種相談業務や同行支援などの直接的支援と啓発活動を開始、全国の加害者家族からの相談に対応している。著書に『息子が人を殺しました』(幻冬舎新書)、『加害者家族を支援する』(岩波書店)、『家族が誰かを殺しても』(イースト・プレス)、『高学歴難民』(講談社現代新書)がある。 ----------
NPO法人World Open Heart理事長 阿部 恭子