愛車の「トヨタ」乗って大丈夫?国交省に聞いてみた
「数万におよぶ調査の結果、六つの事案が明らかになった。いずれも法規に定められた基準はクリアしており、安全にお使いいただけることを確認している。しかし、こうした行為は認証制度の根幹を揺るがすもので、自動車メーカーとして絶対やってはいけないことだと考えている」 トヨタ自動車、ホンダ、マツダなど大手自動車メーカー5社が2024年6月3日、自動車の型式指定をめぐり認証不正があったと発表した。冒頭の発言はトヨタの豊田章男会長が記者会見で何度も強調した内容だ。「絶対やってはいけない」が「基準をクリアし安全に使える」とは、どういうことなのか。本当に乗って大丈夫なのか、国土交通省に聞いてみた。【毎日新聞経済プレミア・川口雅浩】 ◇北米基準をパスしても法令違反 今回の不正でユーザーの関心を集めたのは、トヨタが発表した「六つの事案」のひとつ、「後面衝突試験」だろう。これはクルマの追突事故を想定し、クルマの後面に評価用の台車を衝突させ、燃料漏れがないか確認する試験だ。 問題となったのは、トヨタが14~15年にクラウンとシエンタの開発で行った後面衝突試験だ。国内の法規基準では重さ1100キロの台車を衝突させるルールになっていたが、トヨタはさらに重い1800キロの台車を用いて衝突させ、そのデータを国交省に提出していた。 当然、小型車に相当する1100キロよりも大型の普通車に相当する1800キロの台車が衝突した方が衝撃が大きい。それで燃料漏れが起きなければ、ルール違反かもしれないが、その方がより安全といえるのではないか。そんな疑問がわく。 トヨタによると、1800キロは北米の基準という。トヨタは「法規より大きな衝撃で評価をしたが、本来であれば法規で定められた1100キロの台車を用いて認証試験を行い、そのデータを提出する必要があった」と説明する。 この点について、豊田会長は「北米基準だと1800キロの重さを後ろからぶつけなさいだが、日本の基準だと1100キロだ。この場合、どう考えるべきか。今の私が言うべきではないが、日本のメーカーはグローバルにやっている。日本で認可されたクルマが『世界で一番厳しい基準を通り、大丈夫ですよ』となった方がシンプルだと思う。日本自動車工業会や当局と議論するきっかけになればよい」と語った。 メーカーが安全だと主張しても、これは法令違反に当たるのか。国交省に尋ねると「後面衝突試験を1100キロより重い台車でやっているから安全だと言っても、ルールを無視してよいことにはならない。今回のトヨタは明らかに法令違反だ」(物流・自動車局審査・リコール課)との答えが返ってきた。 国交省によると、日本の型式認証試験は国連の基準で作られており、欧州やアジア諸国と調和した安全基準になっている。これに対して米国は独自の基準という。「トヨタが1800キロの試験の方が安全だからと基準を変えたいのであれば、国交省か世界の自動車工業会を通じて、国連に基準を変更するよう要望し、各国の合意を得なくてはならない」という。 ◇国交省は立ち入り検査と確認試験 もちろん、今回トヨタが発表した認証不正は後面衝突試験だけではない。過去に生産していたクラウンやアイシスでは、本来は衝突させてエアバッグが作動するか確認する必要があるのに、タイマーで自動的に作動させていた。このほか、歩行者頭部や脚部の保護試験、エンジンの出力試験などでも不正があった。 とりわけエアバッグでは子会社のダイハツ工業でも同様の不正があっただけに、ユーザーは不安に違いない。豊田会長に「安全にお使いいただける」と言われても、本当に大丈夫なのか。 この点について、国交省は毎日新聞の取材に「トヨタが『正しい基準で試験をやり直したところ、基準に合致しました』と発表したにすぎない。トヨタが発表しても、本当にそうなのか、国交省としては立ち入り検査に加え、安全性などに問題がないか確認試験を行う。その結果が判明するまで我々は何とも言えない」と、厳しく対応する姿勢を示している。 国交省は不正が発覚したダイハツでも昨年末以降、立ち入り検査と確認試験を行い、確認試験は現在も続いている。トヨタの確認試験も長期化が予想される。 今回のトヨタの後面衝突試験のように、メーカーが安全だと主張しても法令違反となるケースは、ホンダの騒音試験でもあった。どういうことか、国交省はどう対応するのか。