名実ともに主人公は住民 日本とはまったく違うアメリカの地方政治
今月2日、東京都議選が行われました。小池百合子知事が率いる地域政党「都民ファーストの会」が、都議会最大会派の自民党にどこまで迫れるのか注目を浴びた4年ぶりの選挙で、変化を求める嵐が吹き荒れました。今回話題となった東京都政は日本の地方政治の代表格といえますが、同じ民主主義国家の米国における地方政治は一体どういう仕組みになっているのでしょうか。 ニューヨークブルックリン在住のライター金子毎子さんが、地方政治に対する現地の声や具体例も交えてお伝えします。
各州の権限が強い連邦制国家
まず思い出したいのは、米国が連邦制国家であるということです。合衆国憲法により連邦政府が有する権限は、税の賦課徴収、貨幣の鋳造、陸海空軍の維持統括、戦争の宣言・和平、諸外国との条約締結など限定的。憲法に明記されている以外の権限は州政府にあります。 たとえば公教育の実施方法や財源を確立するのも州です。米連邦政府には1979年まで日本の文部科学省に相当する教育省さえありませんでした。トランプ大統領やベッツィ・デボス現教育長官は、同省自体が連邦予算の無駄遣いであり、解体が適切と公言していますが、その是非・賛否はともかく、日本でいう文科省を廃止しようとしている、といった突飛な話では必ずしもないのです。 そして、各州が必要最低限に定めた教育方針や制度を実際に運用するのは、州の下の「学校区」に置かれた公選の教育委員会です。全国統一的な日本の教育基本法や学校教育法にあたるものはありません。州法によって公立学校制度も定められるため、日本のような6-3-3制、あるいは8-4制、5-3-4制と様々。義務教育の年数も州ごとで異なっていたりします。
日本の10倍以上ある市町村
合衆国憲法には地方自治制度に関する規定がなく、各州がその権限を持っています。つまり、州憲法がその下に続く地方政府の設置について定めるわけで、そのあり方は各州によってかなり異なります。そのため一概に「米国の地方自治制度」を語ることはできません。 ひとつ共通して言えるのは(といっても例外があるのですが)、各州には地方政府としてまず郡(カウンティー)があり、タウンや自治体(市町村)、(前述の)学校区、特別区があるということ。最新の国勢調査(2012年度版:5年ごとに実施)によると、全米に郡は3031団体、タウンは1万6360団体、自治体は1万9519団体、学校区は1万2880団体、特別区は3万8266団体あります。平成26年4月の時点で日本の市町村数は1718団体(総務省の統計)ということですから、その数の違いが際立っています。 米国務省の地方政治に関する資料によると、米国の公選職員50万人超のうち、連邦および州レベルの職員は8500人未満で、残りは市議会議員や市長、教育委員会委員、郡保安官、裁判官、治安判事、検察官、会計検査官といった地方政府の職員です。自治体の公選職員が市町村長、市町村議などに限られている日本とは、選挙で選ばれる役職の多さもかなり違います。