名実ともに主人公は住民 日本とはまったく違うアメリカの地方政治
映画『フットルース』は現実世界
米国では州・郡レベルはさておき、市町村の自治体レベルともなると、市民の政治参加が活発になってきます。特に小さな町や村では、成人の多くがなんらかの形で公選職についているなどという場合もあります。 西海岸オレゴンコーストの人口約4000人以下という小さな市、コキール出身の身内は、市の条例で子どもの頃、当時放送が始まったばかりのMTVが禁止になったと話していました。騒音規制も厳しくて、一定以上の音量でカーラジオを聞いていると違反切符を切られたり、ラジオでも基本的にオールディーズしか流れなかったりと、映画『フットルース』を地で行っていたというのです。 「要するに町を50sのまま保存しようとしていたんだ。子どもには窮屈で仕方なかったけれど、自分たちで居心地のいい空気を作れてしまう大人たちにとっては、住みやすい町だったんじゃないかな」(ディビッド・ウォルフ、44歳・コンサルタント)。 しかし、市民が熱心に地元政治に参加するという点では、ニューヨーク市のような大都市も同じです。学区、特別区など様々な単位で、政治家や関係職員と住民の対話型集会が行われ、特に教育関連や家賃関連、市民の足である地下鉄関連の集会などはいつも大盛況です。
住民投票で法律や憲法修正の是非を問う
そのうえ州によっては、選挙の際、投票用紙に住民投票の案件が記載されている場合も多々あります。住民が署名運動をして一定数を集め、法律案や憲法修正案などの賛否を問うたり、州議会によって提案された法律や憲法修正の拒否を問うたりできるのです。 ですから、投票では公職者の選出よりも、むしろこちらにより注意を払っている、という人も多くいます。住民投票にかけられるのは、たとえば安楽死や医療用・娯楽用マリファナの合法化、死刑の是非についてなど物議をかもす内容が多く、市民生活にも直接影響する可能性も高いからです。
地方政治活性化のカギは政府と住民の「距離感」?
米国のように自治体の設置まで人びとの手で……というのは極論ですが、自治体を代表する職員の大半から一部法案/法の是非まで自らの手で選び、直接対話型集会に参加することで得られる地元政府への親近感……。もしかしたら、今後の日本の地方政治活性化の参考になるものかもしれません。 ---------- 金子毎子(かねこ・まいこ) 在ブルックリン。ニューヨークの日系新聞編集長を経て、現在は国際人権団体のコンサルタントおよびフリーランスのライター、編集者、翻訳家。