タイソンを怒鳴った男・ジョー小泉が語る井上尚弥の東京D興行の意義
東京ドームでボクシング興行をするのは稀(まれ)だ。通常のボクシング興行では1万席を埋めるのが目標で、5万人もの大観衆を集めた興行は過去2例しかない。第1回は東京ドームのこけら落としを祝う1988年の統一世界ヘビー級王者マイク・タイソン(米国)の防衛戦だ。さらに2年後、鉄人タイソンが世紀の番狂わせでジェームス・ダグラス(米国)に敗れたイベントのみだ。 当時、筆者はタイソンの日本代理人として上記イベントに参画した。タイソンは40日間滞在し大フィーバーが起こった。連日新聞、雑誌に大きな記事が載った。 毎日、メディアの取材が組み込まれ、タイソンは「同じ質問ばかりでもう飽きた」と拒否反応を起こした。「興行協力はファイトマネーの一部だろ」とどなって説得した思い出がある。 試合当日、ドームと後楽園ホール(収容2005人)の規模の違いを実感した。大観衆の視線はリングに集中し、その声援は桁違いだった。ドーム見たさ、タイソン見たさの相乗効果で興行は大成功だった。 世界4団体スーパーバンタム級統一王者・井上尚弥(31)=大橋=をメインに、同じジム所属の4選手が世界タイトルマッチに出場するのは実に異例だ。現在の井上尚は当時のタイソンに匹敵する国際商品だ。世界中のボクシングファンで知らぬ人がいない。まさに世界的スーパースターだ。 「モンスター」の異名を取る井上が東京ドームで世界戦をする意義を考えてみよう。〈1〉世界中にネット配信される国際的興行〈2〉2階級で4団体の王座統一の偉業を達成した井上の国際的商品価値〈3〉ルイス・ネリという絶好の好敵手を迎えたカードとしての興味深さ。 現在、日本は8人の世界チャンピオンを保持し、軽量級のハブ空港のような位置を占める。尚弥の弟、拓真が強敵アンカハスにKO勝ちして評価を上げた後、指名挑戦者、石田匠との実力伯仲の防衛戦。新王者ユーリ阿久井に桑原拓が挑む強打者対決。元K―1王者で8戦全KO勝ちと上昇気流に乗る武居由樹が強豪王者ジェーソン・モロニー(オーストラリア)に挑む。 日本ボクシングの黄金時代を象徴するビッグイベントが数日後に迫る。 ◆ジョー小泉 1947年3月31日、神戸市生まれ。77歳。国際マッチメーカー、解説者、評論家。17歳から米「ザ・リング」誌の東洋地区通信員を務め今年で61年目。07年12月に元世界フライ、バンタム級王者ファイティング原田に次いで日本人2人目のボクシング殿堂入りを果たす。
報知新聞社