《山内孝徳の巻》“ヒゲのエース”が直立不動の僕に語ったコントロールの極意【ホークス一筋37年 元名物広報が見た「鷹の真実」】
【ホークス一筋37年 元名物広報が見た「鷹の真実」】#39 山内孝徳 ◇ ◇ ◇ 【写真】《デニス・サファテの巻》どんな人物か?「神様」です。ナインから「監督待望論」が何度も上がるキング・オブ・クローザー 僕がプロ入りした1987年、南海には2人の「山内」がいました。 ひとりは速球派の山内和宏さん。そして「ヒゲのエース」こと、制球力に優れた山内孝徳さん(68)です。僕の新人時代、二軍の中百舌鳥球場のブルペンに向かうと、孝さんが投げていました。一軍選手でも、遠征で投げない先発はよく二軍で練習をしていたので、それ自体は珍しいことではありません。 僕が目を奪われたのはその精度です。スピードはそこまで感じませんでしたが、捕手のミットがほとんど動かない。狙ったところにずばずば投げ込んでいました。 そして投球を終えると、「田尻、ちょっといいか」と言う。エースに呼ばれたものだから、僕は直立不動。そんな新人に孝さんはこう切り出しました。 「球速はな、おまえの方が全然速い。でも、俺のコントロールがおまえにあるか?」 無言の僕に孝さんは続けました。 「俺はブルペンなら、捕手が構えたところに10球中9球は投げられる。外れた1球も内角ではなく、外に外れる。で、おまえは何球投げられる?」 「……3球。4球はいかないですね」 「俺でも試合が始まったら、捕手が構えたところにずばっと行くのは10球中2、3球くらいや。田尻の場合、10球中1球行けばラッキーだろ? そういうことを意識しながら練習せんと、この世界ではやっていけんよ」 重圧がないブルペンとはいえ、狙った箇所に9割投げられる投手がどれだけいるか。孝さんはこうも言いました。 「そもそも、自分で投げてて『どの辺にボールが行きそうだ』って感覚があるか? 俺はな、あかん、抜けそうや、って時は中指でボールを押して軌道を変えられるよ」 こうしたアドバイスは、当時の藤田二軍投手コーチが「田尻に教えてやってくれ」と、孝さんにお願いしたものでしょう。僕は結局、2年で引退しましたが、アドバイスは打撃投手時代に徐々に理解できるようになりました。 さすがに孝さんのように指先で軌道を変えることはできませんが、「打者にぶつけるかも」と思った場合は、体を強引に回転させて軌道を修正できるようになりました。 (田尻一郎/元ソフトバンクホークス広報)