相手と共に押し黙る…「典型的な営業」とはかけ離れた「不器用営業マン」が次々と契約を勝ち取った秘訣
おしゃべり営業マンの渡部さん
期間中、ペアを組む相手は毎日替わります。いつもとは違う人と仕事をすることはそれなりの刺激を受けるので、こちらとしても何かしらのプラスがあります。 今日は渡部さんという賑やかな人がパートナーです。結構なおしゃべりで、隣に座っている間中、ずっと私に話しかけてきます。まさしく当時の私が思い描いていた典型的な営業マンでした。 目指す店に着き、早速売り込みが始まります。渡部さんは自販機のカタログを相手に渡し、いつものペースで機材の素晴らしい機能、売り上げがどのくらいアップするのかといった予測を語ります。多少早口ながらも前日の古賀さんとはまったく違う滑らかな口調は、横で聞いていてもじつにスマートです。 しかし、相手の反応はそれほどでもありません。ときどきカタログに目をやることはあってもどこか上の空。明らかに早く話を終わらせたい様子が伝わってきます。 前日を上回る件数を回ったにもかかわらず、その日は一件も契約が取れずに終わりました。助手席の渡部さんは「まぁ、こんな日もあるか」と話しかけてきます。 私はぼんやりとフロントガラスの向こう側を見ながら、昨日の古賀さんよりも流暢に話ができる渡部さんのほうが契約に結び付かないのはなぜだろうと考えていました。
ふたりの営業マンから学んだこと
2人の言葉の一つひとつを思い出しながら、ふと話していることの違いに気づきました。渡部さんは機材の性能の素晴らしさやそれによってお店の売り上げが上がることを一生懸命説明していたのですが、古賀さんは機材を設置することによって、相手にどんな嬉しいことが起こるのかを少ない言葉で伝え、私たちが売り込んでいる自販機に投資することへの不安や疑問に耳を傾けることに多くの時間を費やしていたのです。 もちろん不安をきちんと払拭できないこともありますし、明快な回答をすることができないものもあります。時には「そうですね……」と言って口籠ることもあります。そんな時も古賀さんは相手と共に押し黙って考えています。なんとも言えない空気が漂いますが、それほど重たいものでもありません。なぜなら相手と同じことを思い、なんとかしようと相手の立場で考え、一緒の方向を向いている雰囲気がそこにあるからです。売り手と買い手の関係ではなく、さながら協働関係のような空気すら感じられます。 よく「人は自分事でないと動かない」と言われます。かたちとして営業はモノやサービスを相手に売り込むのですが、相手が「買う・買わない」を決めるのは結局、相手の「自分事」に対して、営業がどれだけ応えることができるのかに尽きるように思います。 古賀さんの話し方は不器用ですが、彼と一緒の営業現場ではそれさえも素敵に思えてきます。 『相手の立場に立つのは当然⁉...現代人が必ず実践すべき「本当に」相手を考えた振る舞いとは』へ続く
山岡 彰彦(株式会社アクセルレイト21 代表取締役社長)