【小児科医が教える】離乳食期に「青魚を食べた子、食べなかった子」。2歳になって表れた違いとは? ~ある研究より~
この連載は、『医師が教える 子どもの食事 50の基本』の著者で、赤坂ファミリークリニックの院長であり、東京大学医学部附属病院の小児科医でもある伊藤明子先生によるものです。テレビなど多数のメディアに出演されている信頼度の高い人気の医師です。 本書の読者からは、 「子を持つ親として、食事の大切さがよくわかった」 「何度も読み返したい本!」 といった声がたくさん届いています。不確かなネット情報ではなく、医学データと膨大な臨床経験によってわかった本当に子どもの体と脳によい食事。毎日の食卓にすぐに取り入れられるヒントが満載です。今回は魚を食べることについての重要性を解説します。 ※食物アレルギーのある方は必ず医師に相談してください。 ● どうして魚は体にいいの? 青魚(いわし、あじ、サバ、さんま、まぐろなど)にはDHA(ドコサヘキサエン酸)、EPA(エイコサペンタエン酸)が豊富に含まれています。 青魚に含まれる脂(脂肪酸)は多価不飽和脂肪酸といって、カラダによい脂です。DHAとEPAは、この多価不飽和脂肪酸のなかのオメガ3に分類されています。 多価不飽和脂肪酸は必須脂肪酸で、つまり、摂らないと健康を保てない脂です。カラダの炎症を抑えたり、動脈硬化を予防したりします。 DHA、EPAには脳の神経を保護する作用もあり、これらの値が低いと、 ・不安感が強くなる ・集中力が低下して、落ち着きがなくなる などが、研究の結果でわかっています[*50]。 また、離乳食期に青魚を多く食べていた子のほうが、そうでない子よりも2歳の時点でIQが高かったという研究もあります[*51]。ほかにも皮膚を保湿する、炎症を抑えるといった作用もあります[*52]。ぜひ積極的に摂りたい食材ですね。 ● DHA、EPAを摂るにはどうしたらいい? DHA、EPAは、肉にもほんの少し含まれていますが、やはりおすすめは魚です。 ある研究によると、魚に含まれるDHA、EPAの割合は、 ・グリルで焼いた場合 → 加熱調理後に約85%下がる ・揚げた場合 → 加熱調理後に約55%下がる ことが報告されています[*53]。DHA、EPAは脂なので、温度が高く、時間が経てば経つほど酸化して悪いものになっていきます。できるだけ新鮮な魚を、調理したての状態で食べられるとよいですね。 刺身で魚を摂ることは、もちろんカラダによいです。ただ、刺身だけで重さ100gは摂りづらいかもしれません。その場合は、ほかのたんぱく質も合わせておかずにしましょう。 刺身のときの醤油は減塩の観点から、つけすぎないように注意してください。スプレー型の醤油さしのほうが使用量を減らせるようなので、ご検討くださいね。100円ショップで手に入ります。 ● ADHDとオメガ3の関係って? ADHD(注意欠陥多動性障害)のお子さんの血液を検査すると、オメガ3の値が低いことが多いです。液体やカプセルなどでオメガ3を補充することで、症状が緩和されたという研究が複数あります。この場合、副作用がないのがうれしいですね[*55]。 イギリスと台湾のある共同研究では、ADHDと診断された子どもたち約100人をAとBのグループに分けて、 ・Aグループには毎日1.2gのEPAオイル ・BグループにはEPAではない安全なオイル(外見では区別がつかない) を3か月にわたって摂取させたところ、AグループではADHDの特徴が統計学的に有意に改善されたと報告しています。 ただ、ADHDはほかの病気・不調同様に、程度が軽いものから重いまでありますので、どの方でも同様の結果が出るわけではないことはお伝えしておきます。 ● 魚不足を感じた時のおすすめレシピ 2006年を境に、日本人の魚介の消費量が肉の消費量を下回っています。[*54] ふだんお魚メニューが少ないなと思ったら、ぜひ試してほしいレシピをご紹介します。 ◆お魚バーグ◆ 材料(2人前) ● アジの刺身 …… 400g ● しょうが …… 1かけ ● わけぎ …… 3本 ● 青じそ …… 2枚 ● みょうが …… 2本 ● 酒 …… 小さじ2 ● みそ …… 小さじ1 作り方 1 しょうがはすりおろし、わけぎ、青じそ、みょうがは小さく切る。 2 アジの刺身を包丁で細かく刻んでボウルに入れ、1を入れて混ぜる。 3 2に酒とみそを入れて混ぜる。 4 小さなハンバーグ状、あるいは肉団子風に丸めて、フライパンで焦げ目がつかないように焼く。 ハンバーグ状なら3~4分が目安。 アレンジ 好みによって、にんにく、玉ねぎ、バジルなどを入れて洋風にしても、ねぎ、ごま油、八角の粉、オイスターソースを少し混ぜて中華風にしても楽しめますよ。 魚の栄養素をたっぷり摂ってもらいましょう! (本原稿は伊藤明子著『医師が教える 子どもの食事 50の基本から一部抜粋・編集したものです) *50 Natacci L, et al. Omega 3 Consumption and Anxiety Disorders: A Cross-Sectional Analysis of the Brazilian Longitudinal Study of Adult Health (ELSA-Brasil). Nutrients. 2018 May 24; 10(6):663. *51 Kuratko CN, et al. The relationship of docosahexaenoic acid (DHA) with learning and behavior in healthy children: a review. Nutrients. 2013 Jul 19; 5(7):2777-2810. *52 https://lpi.oregonstate.edu/mic/health-disease/skin-health/essential-fatty-acids (2022年11月20日) *53 Cheung LK, et al. Mechanisms of Docosahexaenoic and Eicosapentaenoic Acid Loss from Pacific Saury and Comparison of Their Retention Rates after Various Cooking Methods. J Food Sci. 2016 Aug; 81(8):C1899-1907. *54 農林水産省. https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/h29_h/trend/1/t1_2_4_2.html (2022年11月20日) *55 Chang JP, et al. High-dose eicosapentaenoic acid (EPA) improves attention and vigilance in children and adolescents with attention deficit hyperactivity disorder (ADHD) and low endogenous EPA levels. Transl Psychiatry. 2019; 9(1):303.
伊藤明子