話題の“本物のスライス入り”レモンサワー アサヒビール担当者が語る開発秘話 「レモンが浮かび上がるのがワクワクの一丁目一番地」
櫛切りかスライスか
商品開発プロジェクトは2021年に始動した。 「居酒屋のサワーのように果物を入れたら面白いというアイデアのもと、定番のレモンの採用を決定した。過去につぶつぶの果肉入り飲料を作ったことはあったものの、大きなサイズの果実を入れるのは未知の領域。量産する製造設備もなく、ゼロからの開発でした」(同前)
最初に試したのは、居酒屋でおなじみの「櫛切り」。ところが厚みがある櫛切りでは、保存性を保つための乾燥が不十分になってしまう。また、皮が大きすぎて理想の香りや味わいにならず、断念せざるを得なかった。 次に選ばれたのがレモンスライスだった。 「厚さ、重さ、直径を模索し、トライ&エラーの繰り返しでした。櫛切りより果肉の強度が落ちるので欠けたり、缶に充填したサワーの中で崩れてしまったりと、失敗は数えきれません」(同前) だが、そうした試行錯誤の中で、開栓時にレモンスライスが炭酸に乗って浮いてくるという“偶然の産物”に巡り会えた。 「レモンが浮かび上がるのが、お客様のワクワクの一丁目一番地になると確信しました。ベストな状態で浮き上がるよう、レモンの厚さを最終的に5ミリにし、2度乾燥させることで最適な水分含有量に。糖をコーティングして、出荷後も形状を維持できるようにしました」(同前) 店頭発売直前に開催された有料試飲イベントでは「レモンは食べられるの?」との声もあった。 「レモンは世界的な産地、中国四川省安岳県の契約農家で栽培しています。輸入レモンは輸送中の虫やカビの発生を防ぐため収穫後に薬剤散布をすることが多いですが、この商品のレモンは薬剤を使用せず、現地で加工しています。安心して食べていただけます」(同前)
缶によってレモンの大きさにばらつきがあり、種入りもある。 「種を取り除いたほうがいいとの意見も社内にありましたが、新しい体験、新しい価値を楽しんでいただくために、レモンの個体差を打ち出しています。レモンは缶の中で熟成するので、保存期間によって香りや味わいの変化も楽しめます」(同前) 購入者からは「美味しく飲んだけど、普段楽しむには価格が高い」との意見もあり、エンタメ性に惹かれた客がリピート購入するかが、今後の課題となりそうだ。価格やアルコール度数の競争から距離を置く商品は、缶チューハイの「未来」をどう変えていくのだろう。 ※週刊ポスト2024年7月12日号