ランニング中に倒れた男性が帰らぬ人に 仲間たちに自責の念…現場で救急隊員から受け取ったカードが持つ意味
消防署に電話
夜が明けても、もんもんとした状態が続いていた。気分転換に散歩に出かけたが、亡くなった男性と同年代の人を見かけると、男性が歩いているように思えてしまい、余計につらくなった。「メンタルが弱っているなと感じました」。長野さんはその翌日、公園で救急隊員に渡されたカードに記されていた消防署の相談窓口に電話をし、つらい気持ちを訴えた。すると後日、消防署から電話があり、「救命の仕事をしている消防士でも、同じようなストレスを感じることがある。そういう時はチームで気持ちを打ち明け合う場を設けている」と聞かされた。 長野さんは、一緒に走っていた仲間たちに連絡を取った。すると、みな同じ思いを抱えていたことが分かった。後日、再び集まり、もやもやしていて言えないでいたことなどを話し合った。「仲間と気持ちを共有し、現場でやれることはやったと実感することができ、心が少し軽くなりました」。その後、メンバーとともに、消防署で救命救急の講習を受けた。
感謝カードとは
長野さんが救急隊員から渡されたカードは、「感謝カード」や「サンキューカード」などと呼ばれている。最近では、現場に居合わせて人命救助に当たった人に、こうしたカードを配る消防署が増えている。 千葉市では、2016年9月にこの取り組みを始めた。救急車に「応急手当感謝カード」を備え、救護をしてくれた人(バイスタンダー)に配布している。「(一刻を争う)現場では、バイスタンダーに丁寧な対応をするのは難しい。そのため、カードで感謝の気持ちを伝えるとともに、バイスタンダーをサポートする相談先を案内したい」(市消防局)というのが配布を決めた理由だ。 カードには、各地域の消防署の連絡先が記されている。救護をした人が「正しく救命処置をすることができたのか」「自分が施した処置によって、病状を悪化させてしまったのではないか」「血液に触れたけれど、何か病気に感染していないか」などといった不安を感じた時に、相談できるようにするためだ。心理的な不安が強い場合は、「各区保健福祉センター」や「こころの健康センター」を紹介するようにしている。24年4月には、市立海浜病院に「バイスタンダーサポート外来」を設置し、受け皿を増やした。