アギーレ続投で生じる3つのリスク
最後は最悪の場合、つまりアギーレ監督の解任に踏み切らざるを得なくなった際の善後策が、問題を先送りにすることで後手を踏んでいくことだ。 記者会見の最後には、告発が受理された後の対応を日本サッカー協会内で話し合っているのかという質問が飛んだ。原専務理事は「受理される可能性はあると見ている」と事態が次なるステージに進むことを想定した上で、こう答えている。 「あらゆる対応ができるように、当然ながら、いろいろなことを考えている」 対応の中には、後任監督の人選も含まれてくる。アジアカップ前あるいは期間中に最悪の事態に陥れば、アギーレジャパンでコーチを務めるU‐21日本代表の手倉森誠監督が代行を務めるだろう。 問題はその後だ。来年6月からはワールドカップ・ロシア大会出場をかけたアジア予選が始まる。チーム作りへの時間がないことと、技術委員会が外国人監督を第一に考えている現状を踏まえれば、必然的に「日本サッカー界をよく知っている」ことが条件として挙げられる。 Jクラブの監督経験者で結果を残している指揮官に限定すれば、今シーズンまで柏レイソルを6年間率いたネルシーニョ氏がベストだった。しかし、3つのタイトルをレイソルにもたらした手腕を他のJクラブが放っておくはずがなく、ヴィッセル神戸監督への就任が決まった。 鹿島アントラーズをJリーグ史上初の3連覇に導くなど、6年間で6つのタイトルを獲得したオズワルド・オリヴェイラ監督は、9月にサントスの監督を解任された後はフリーの状態だった。しかし、くしくもアギーレ監督が告発された翌日の16日にパルメイラスの監督に就任することが決まっている。 浦和レッズのミハイロ・ペドロヴィッチ監督は来日してから9年を数えるが、独特の可変システムに適応できる選手が限られてくる点でリスクが生じてくる。何よりもレッズとの契約を延長したばかりだ。 フリーである人物に限れば、昨シーズン限りで6年間務めた名古屋グランパス監督を退任したドラガン・ストイコビッチ氏と、アルベルト・ザッケローニ前日本代表監督の2人となる。特にストイコビッチ氏はパリの自宅で充電中で、日本を率いることにも意欲的だが、J1を初めて制した2010年シーズン以降は長身FWケネディにロングボールを集める単純な戦術に終始。チーム内にマンネリ感を生じさせた。 ザッケローニ前監督を再登板させた場合は、本人のモチベーションが問題となるだろう。選手たちが新鮮味を感じないおそれもある。三好弁護士が17日に行った2度目のヒアリングに対しても、アギーレ監督は「八百長にはいっさい関与していない」という従来の主張を繰り返した。「疑わしきは罰せず」という刑事裁判の原則があるが、巨額の予算を扱う公益財団法人として、本人の言葉を鵜呑みにするわけにもいかない。今後の進展がなかなか読めない中で、万が一の場合のリスクを最小限に食い止める危機管理能力が日本サッカー協会に問われることになる。 (文責・藤江直人/スポーツライター)