「5000万の遺産、オレにもよこせ」…父の死後、「隠し子」から送られてきた「衝撃の手紙」
隠し子から届いた内容証明郵便
筆者としては、たとえ和樹さんが家にいるときに隆さんがやってきたとしても、彼がそれでおとなしく引き下がったかは甚だ疑問である。なぜなら、隆さんの主張は正しく、法的に保障された遺留分という権利がある。 現にその数日後、由貴さん宛に隆さんからの内容証明郵便が届いた。開けてみると、「私は、亡達夫の全財産の8分の1の遺留分を有しています。よって貴殿に対し、本書面をもって遺留分侵害額請求をいたします」と記されていた。 「遺留分」とは、簡単にいえば、たとえ遺言書があっても保証される最低限の相続分のことだ。つまりこのケースの場合、遺言書に「由貴さんに全財産を相続させる」と記されていても、隆さんにも遺留分を請求する権利が発生する。 「もしかしたら、さっさと相手の要求通り遺留分を支払っていれば、それで縁が切れてこの件は終わったのかもしれません。ただ、母は父に子どもがいたことで動揺していたというか、頭がカッカしていたんでしょうね。それは僕も同じですが。だから、『こんな主張が通るわけない、だって遺言書があるんだから』と、無視することにしたんです」 その後、隆さんは由貴さんに対して訴訟を起こした。そして結局、由貴さんは隆さんに遺留分を渡すことになったのである。
隠し子にも配慮した遺言を
冒頭で述べたとおり、このような「隠し子騒動」は珍しくはない。相続の際に「相続人の誰も知らない、血のつながった兄弟が出てきた」というケースはしばしば発生する。 隆さんに認められた法定相続分は、達夫さんの全財産の4分の1。本来、由貴さんは隆さんに遺産の4分の1を渡さなければならない。法定相続分とは、相続人に認められる遺産相続割合のことで、遺言書がない場合は基本的に法定相続分が遺産を分ける基準となる。一方で遺留分とは、「最低限の遺産取得割合」。遺言や贈与があった場合に、一定範囲の法定相続人に「遺留分」として認められる。 このケースにおいては、達夫さんが公正証書遺言を作成していたおかげで、遺留分である財産の8分の1のみの支払いで済んだといえる。遺言を残していなかったら、財産の4分の1を渡すことになった可能性は高い。 和樹さんは、「前妻や隠し子から財産を請求されることを危惧して遺言書を残したのではないか」と推測していたが、結果として遺言のおかげで財産の8分の1を渡すだけで済んだのだから、この遺言は達夫さんなりの相続対策だったのかもしれない。 なかには、前妻の子どもが突然現れた由貴さんに同情する人もいるかもしれない。しかし、由貴さんが前妻の潤子さんや隠し子の隆さんの存在にまったく気づいていなかったということは、達夫さんは隆さんの養育費をきちんと支払っていなかった可能性がある。 前妻である潤子さんは、シングルマザーとして苦労して隆さんを育てたのかもしれない。そう考えれば、隆さんが遺産相続を主張するのは、法的にも道義的にも当然の権利ではないだろうか。 とはいえ、筆者としては、達夫さんは遺言で、前妻との子どもの存在に触れて、あらかじめ遺留分に配慮した財産分与をすべきだったと思う。そうすれば、訴訟にまで発展することはなかったかもしれない。 「自分の死後、残された家族がもめないように」――被相続人はそう考えて遺言を残すものだが、本当に残された家族のことを思うのなら、士業などの専門家に自分の状況を相談しながら遺言を残すことをおすすめしたい。
澤井 修司(司法書士・行政書士・あす綜合法務事務所グループ代表)