ロシアによるウクライナ侵略で「ゲームチェンジャー」になり得るのは兵器ではなく「能力」 専門家が指摘
海・空では「非対称に、かつ相手が想定していないところを突く」戦い方をするウクライナ
飯田)ウクライナは戦い方を変えているのでしょうか? 小泉)変えていないと思います。陸では四つ巴で戦っていますが、海や空では、ロシア軍に正面から対抗できないことはわかっているわけです。だからロシアのやらないこと、ロシア側がやられたら困るであろうことを重点的に行う。ロシアが戦闘機を飛ばすなら、何か別の手段を使う。また、ロシア海軍はいますが、ウクライナ海軍は壊滅してしまったので、別の方法で戦う。そうやって海・空では「非対称に、かつ相手が想定していないところを突く」という戦い方をしており、おそらく早期警戒機の撃墜なども同様だと思います。
砲弾や戦車など、地上戦力の主力そのものを供与しなければ、この先もウクライナは厳しい
小泉)一方で最近、ほぼ毎日1機のペースでロシアの戦闘爆撃機が撃墜されています。これに関しては「西側の防空システム対ロシアの戦闘機」という真正面からのガチンコ勝負です。結果として現在の撃墜ペースになっていますが、撃墜し切ることはできず、毎日凄まじい空爆を受けたのでアウディーイウカは放棄せざるを得なかった。こちらに関しては西側とロシアのテクノロジーが刺し違えている感じがします。 飯田)いま、西側からの支援が各国の国内事情などで滞っており、そのため刺し違えの状態になっているのでしょうか? 小泉)それもありますが、もともとロシア空軍と真正面から戦うだけの兵器を供与するのは、簡単ではありません。いまでも行ってはいますが、西側からの潤沢な軍事支援があったとしても、地上でロシア軍と真正面からやり合うのは難しい。砲弾や戦車など、地上戦力の主力そのものを供与しないと、この先も厳しいのではないかと思います。
ゲームチェンジャーになり得るのは兵器ではなく「能力」
飯田)西側からの支援では、まさに「F16戦闘機」が訓練の真最中です。「そろそろか」と言われますが、それらが入ると劇的に状況が変わる可能性はありますか? 小泉)今年(2024年)の2月にウクライナ軍のザルジニー総司令官が罷免されましたが、彼が昨年(2023年)11月に英誌『エコノミスト』へ寄稿した小論文によると、そのような「劇的な効果はない」ということでした。いま約束されている70機ほどの「F16」が全部入ってきたとしても、ロシア空軍の規模の方がずっと大きいからです。ただ、ウクライナ空軍はなくなりかけているため、新しい飛行機を入れないと、これまでできていたことさえできない可能性が高いのです。 飯田)なるほど。 小泉)アメリカ製「F16」の一部には、レーダーを見つけ出して駆り出す能力があります。その能力が付いていたら、例えばロシア軍の地上の防空システムなどを一部無効化し、ウクライナ空軍が活動できる領域を広げるなどの効果はあると思います。いずれにしても、この2年間でわかったことは、「1つの兵器がゲームチェンジャーになることはない」ということです。「ゲームチェンジャー」になり得るのは「能力」なのです。 飯田)能力ですか? 小泉)ロシア軍を地上で負かす、または航空優勢を確保するような能力です。それがあれば「戦況が変わる」という議論はできます。その能力が何から構成されているかと言うと、例えば航空優勢には当然、戦闘機が必要ですし、防空システム、電子妨害システムも必要です。それらの総体として航空優勢を得る能力がつくられるのです。いまアメリカから約束されているのは、航空優勢を得る能力の一部であると考えるべきです。