《ブラジル記者コラム》 1千団体ひしめく日系社会の今=知られざる鳥居大国ブラジルの謎
田中龍夫、田中角栄、福田赳夫、麻生太郎、小泉純一郎、安倍晋三ら政治家の足跡
日本の政治家と日系団体とのつながりはあちこちに残っている。例えば県連事務所の看板は麻生太郎副総理が揮毫したものだ。イビラプエラ公園の開拓先没者慰霊碑(5)の揮毫は田中角栄総理だ。 田中義一首相の長男・田中龍夫(たなかたつお)代議士は長らく「日本海外移住家族会連合会」の会長を務め、世界各地に旅立つ日本移民とその家族の支援に尽力した。同家族会連合会の初代事務局長だった藤川辰雄氏が、自分が送り出した移民の実情を知るために視察に来た際、多数が夢半ばに斃れて無縁仏になっていることを知り、彷徨える霊を慰めるために仏門に入り、この開拓先没者慰霊碑建立に尽力した(6)経緯がある。 藤川氏は1986年9月、アマゾン地域で亡くなった日本移民の無縁仏の供養をする巡礼の旅の途中で行方不明となり、入水自殺したとも言われる。岡村淳監督のドキュメンタリー映像作品『アマゾンの読経』(7)に詳しい。 田中龍夫氏の選挙地盤は河村建夫氏が継承し、河村氏は後に中南米日系人支援議員連盟会長に。また麻生太郎氏(日伯国会議員連盟会長)は1975年頃、麻生セメントのブラジル子会社社長としてサンパウロ市に1年間ほど駐在した経験がある。 文協庭園には、小泉純一郎総理や安倍晋三総理の揮毫による記念碑、群馬県高崎市と姉妹提携するサンパウロ州サントアンドレ市には福田赳夫首相の揮毫による「拓魂」碑と福田康夫首相が揮毫した石碑という親子碑が揃う(8)。小泉首相が2004年にヘリコプターで突然訪れたグァタパラ移住地にはそれを記念した碑がある。
TV番組や小説にもブラジル日本移民が多数登場
日本にはない当地独自の集まりとしては、移民船ごとの同船者会(NHKスペシャル『移住10年目の乗船名簿』になったあるぜんちな丸など)、同じ地方からサンパウロ市に出てきた人の集まり移住地同窓会(バストスやアリアンサなど)がある。 やはりNHK特集で扱われたユバ農場も特徴ある存在だ。武者小路実篤が白樺派文人を集合して1918年に〃新しき村〃を創設した運動に触発されて、1935年に第1アリアンサに、弓場勇が仲間達と共に作った共同農場だ。「祈り、耕し、芸術する」を目標に現在も約60人が共同生活を送っている。 NHKは2005年に「放送80周年記念 橋田壽賀子ドラマ」と銘打って『ハルとナツ 届かなかった手紙』(全5回)を制作して話題を呼んだ。収録の際、岩崎家の東山農場が主なロケ地になった。 文学作品としても、無名時代の石川達三氏は国策会社「海外興業株式会社」が発行する雑誌『植民』編集部で働き、1930年には移民船「らぷらた丸」でブラジルへ渡り、神戸の海外移民収容所の様子に衝撃を受けて、帰国後に中編小説「蒼氓」を発表。1935年に第1回芥川賞を受賞した。