医療の“多摩格差” 東京23区と医療サービスに「違い」 都心と比べ人員確保に苦労も…
住む地域によって受けられる医療サービスの違いが生じる「医療格差」は、多くの大規模な病院がある東京都内でも実は生じています。都内の大学病院は特別区部に集中していて、多摩地域には少ないという現状があります。病床数も23区ではほとんどの地域が、地域の人口や病床の利用率を基にした「必要な病床数」を示す「基準病床数」を満たしているのに対し、多摩地域などを含む市町村部では青梅市やあきる野市を含む「西多摩地域」以外は基準を満たしていません。多摩地域にある病院の現状を取材しました。 東京都内には先進的な医療を提供する大学病院や、高度な医療を受けられる特定機能病院などが集まり、都内だけでなく近隣の県からも多くの患者を受け入れています。しかし、都内であっても23区に比べ、多摩地域では大学病院への距離も遠く、国が求める病床数の基準を満たす地域も少ない状態です。 東京都医師会の水野重樹理事は現状について、23区と多摩地域の医療では地域によって受けられる医療に違いがあると話します。水野理事は「東京でも多摩の奥の方に行くと過疎地があるし、診療科が限られることもある。救急対応が必要な場合にはヘリコプターを使うこともある」と指摘した上で「大学病院は都心部に固まっているので、最先端の医療を受けたいとなると、都心に多摩からやって来ることはある」といいます。 多摩地域にある武蔵野市は「住みよい街ランキング」全国1位にも選ばれる人気の地域ですが、市民の救急の医療体制が深刻な事態となっています。 吉祥寺南病院は重症患者の緊急搬送や大規模災害時などに対応する医療機関に指定されていました。50年以上にわたって地域の医療に貢献してきましたが、2024年9月末に施設の老朽化の影響で「休診」としました。病院を経営する医療法人は施設の建て替えを検討したものの、建設費の高騰から断念したということです。病院を訪ねてみると、入り口には「休診のお知らせ」の紙が貼られ、病院の中には人の気配がありませんでした。医療法人は現在も事業の継承先を探していますが、再開のめどは立っておらず、市民からは不安の声が上がっています。吉祥寺南病院を利用してきた人からは「この近所に大きな総合病院はない。紹介されて他の病院に転院せざるを得ないが、自宅も近いから、なくなるのは非常に迷惑千万」「病院が全部なくなってきている。吉祥寺全体がみんな、検診だけとか、小さな病院になっている。いざとなったら救急車が行く病院がない。とても不安」などといった声も聞かれました。 市民の声を受け、武蔵野市は経営する医療法人に対し、後継となる事業者を早く見つけるよう強く要請しています。武蔵野市の小美濃市長は「まずは吉祥寺南病院の後に事業継承する事業者を一日も早く決めてもらい、一日も早く病院を再開してもらいたい。病院がオープンしてもらえる支援を、市として最大限努力していきたい」と話します。そして地域を支える医療サービスの停止に対し、市長はこうした事態は武蔵野市内で今後も起きる恐れがあると危機感を強めます。小美濃市長は「市として、民間病院にどういう支援ができるのか、全庁的な話として今後議論し、できるだけの支援をすることで、市民の医療、健康、福祉を守っていきたい」と話しています。 さらに、多摩地域には運営上の大きな課題を抱える病院もあります。 八王子市にある右田病院では、病院に必要不可欠な医療従事者の採用で問題が生じているということです。病院を運営する医療法人財団興和会の右田敦之理事長は「看護学校の新卒者は、どうしても都心の方に就職しがちだというのが悩み。特に立川を過ぎてからのエリアはなかなか人が来てもらえない実感がある」と人材確保の悩みを打ち明けます。右田理事長は人手不足に陥りやすい地域では、緊急時に医師や看護師などの人員が確保できるかどうかも課題だと危惧しています。右田理事は「救護所を作る場合も、行政のは箱(施設)を作ることを意識し過ぎてしまうことがある。箱を作ってもどういう人間が携われるのかというのを想定した災害対策を考えた方がいい」と指摘しています。