尾野真千子 & 結城貴史監督 インタビュー 長年の友人関係から紡ぎ出された、家族との再構築を描く『DitO』
人の顔色は伺わない
――尾野さんは顔色を伺ったりすることが出来ないということですね。 結城:それは昔からそうだった。仕事が無い頃、仲間内で居たとしても凄く自然体で、100か0、好かれるか好かれないかしかないんだと感覚的に思っていました。それは今でも変わっていないし、それが好かれる側にパワーが回っていったのだと思っています。芝居に関しては間違いないから、入口にさえ立てば、この人は成功すると思っていました。 尾野:ありがとう。私が思うにね、この人(結城)はずっと窓拭き掃除をしていたからだと思う。 結城:映画の中でも出て来るね。窓拭き掃除は本当に自分がやってきた仕事なんです。 尾野:本当にずっと来る日も来る日も窓拭き掃除をやっていたんです。色々なバイトをするのではなく、まるで天職なのではないかと思うぐらい窓拭き掃除の仕事をしていたんです。だから芝居の中で窓拭きをさせたら本当に上手いのは彼だと思います。そうやって、1つのことを続けられるって同じだと思うんです。芝居が好きだから、そのために窓拭きを極めた。窓拭きでなくても、何でも良かったと思うんですけど。 結城:窓拭きは、お金も良かったからね。 尾野:私は彼の私生活のことは何も知りませんが、あの窓拭き掃除の仕事があったからずっとお芝居のことがやれたんだと思っています。だって会うたびに窓拭きの仕事をしているんです。 結城:以前、ガソリン代が無くなって真千子に500円を借りた時も、つなぎを着てヘルメットを被った窓拭き仕事のスタイルでした(笑)。 ――ボクシングも今もされているんですよね。 結城:はい、今もやっています。凝り性なんです。だからこそ、生半可な気持ちで監督をしてはいけないという思いがあります。覚悟を持って、この作品の監督をしました。合作はやっていきたいと思っています。 ――その心は。 結城:僕はずっと居場所を探し続けて、日本では、尾野真千子のようにはいかなかったので、そうなると色々なことをやり始めるんです。制作会社を立ち上げてみたり、仲間たちと色々なことをやってみたり、それが海外に広がった時に仕事が増えたりもしました。それで、居場所を俺は自分で探さないといけないと思ったんです。海外で広がったのが合作でした。日本で居場所を見つけることが出来なかったからこその今があるので。 尾野:かっこいいよ。 長年、友人関係を築いた二人だからのラフでハートフルな対談。互いの前では嘘は言わないのだろうなと思いながら耳を傾け、改めて映画を振り返ると『DitO』には、言語の違う人との家族のような繋がりと、家族との再構築が描かれていました。映画の裏テーマは、マニー・パッキャオが普段から口にしている言葉「Age is just a number(年齢はただの数字)」だと言っていた監督の思いは本人にも届き、パッキャオも日本映画に初出演。そんなミラクルから劇場公開を迎えた本作。願いは自分次第でいつでも叶えられると伝えているようでした。
取材・文 / 伊藤さとり