人口増えた北海道東川町 誕生の喜び共有「君の椅子」贈呈で起きた地域再生
子供の成長を「君の椅子」で実感
「君の椅子」を贈られた家族は実際どのように感じているのだろうか。 仕事の関係で、道内のほかの自治体から移住してきた高石さん一家には、野球が大好きな大成くん(10)と美春ちゃん(9)、美空ちゃん(4)の3人兄妹の元気な声が飛び交う。 美春ちゃんは「ひっくり返すと高さが変わるところと、ここ(ひじ掛け)に物が置けるところ」、美空ちゃんは「下に宝物の絵本が置けるところ」と、それぞれの椅子のお気に入り部分を教えてくれた。 恵登くん(5)、莉瑚ちゃん(3)、旬くん(1歳)の3人兄妹を持つ大西さん夫婦も長男の妊娠を機に洞爺から移ってきた移住組だ。 「『君の椅子』のことは全然知らなかった」。お母さんの直美さんは笑う。 「親戚に子供がいなかったので、長男が生まれ、まだ何も子供のための物がなかった時に、贈られた小さな素敵な木の椅子に感激しました。二人目、三人目を授かった時も欲しいと思いました」。 ようやく腰が据わって座れた。つかまり立ちができた。踏み台の代わりにして自分でご飯をよそうようになった……。3人それぞれの成長の違いを「君の椅子」を通して感じてきたという。贈られた家族を訪ねて、少し日焼けして、ツヤが出てきた「君の椅子」に、あらためてこのプロジェクトの意義を感じた。
愛されればその子は人を愛する人になる
「『君の椅子』は座る、という機能では6、7年で役割を終えて、子供達も忘れていってしまうかもしれません」。 歴代の「君の椅子」を眺めながら磯田さんは語る。 「その子供たちも長い人生においては、壁にぶち当たることもある。そんな時、自分の誕生を肯定してくれた証しの椅子があったんだ、自分の誕生を地域の人たちが喜んでくれたんだと思い、苦難を乗り切る勇気をわき上がらせてほしい」。 「『愛されれば、その子は人を愛する人になる。社会に愛されれば、その子は社会を支える大切な人になる』と言われます。その言葉を信じてこれからも子供達に小さな椅子を届けたいと思います」。 文・写真、倉谷清文(写真家)