<インド>行列の年越し蕎麦 ── 高橋邦典フォト・ジャーナル
除夜の鐘の音が響く。体の芯に伝わってくる重い振動がなんとも心地よい。この音を生で聞くのは何年ぶりだろう。20年以上前に故郷の仙台を発ってから、正月を日本で過ごした記憶はないから、もうずいぶん長いことになる。マハボディ寺からそう離れていない場所にある日本寺では、毎年大晦日には除夜の鐘を鳴らし、訪れる人に年越し蕎麦をふるまうのだ。 境内の焚き火のまわりには人が集まり、蕎麦をもらうために結構な長い列ができていた。並んでいるほとんどが地元のインド人。味が淡白で、インド料理とは両極にあるような蕎麦を彼らが美味しいと感じるとは思えなかったが、ただでくれるのなら食べておこう、そんな程度のことだろう。 「3、2、1…」 寺の住職がスピーカーをつかって新年へのカウントダウンを唱えるが、日本語なので地元の人たちにはいまひとつ状況がつかめない。午前0時に花火が上がり、ようやく合点のいったみなで「ハッピーニューイヤー!」と相成った。 異国で味わう日本の大晦日、悪くはないな。 (2014年12月) ---------------- 高橋邦典 フォトジャーナリスト 宮城県仙台市生まれ。1990年に渡米。米新聞社でフォトグラファーとして勤務後、2009年よりフリーランスとしてインドに拠点を移す。アフガニスタン、イラク、リベリア、リビアなどの紛争地を取材。著書に「ぼくの見た戦争_2003年イラク」、「『あの日』のこと」(いずれもポプラ社)、「フレームズ・オブ・ライフ」(長崎出版)などがある。ワールド・プレス・フォト、POYiをはじめとして、受賞多数。 Copyright (C) Kuni Takahashi. All Rights Reserved.