『デューン 砂の惑星PART2』──IMAXで体験する圧倒的な映像とスター俳優の競演、もはや宗教的ともいえるその見どころを徹底解説
ティモシー・シャラメやゼンデイヤに加え、フローレンス・ピューにオースティン・バトラーまで、今をときめくヤングスターたちが勢揃いする『デューン 砂の惑星PART2』。豪華な俳優陣が見たことのない洗練された美術とアイコニックなヘアメイクをまとい、IMAXで撮影された圧倒的に美しい映像と心を抉るサウンドが、観客を砂の惑星へ誘う。2時間46分の超大作、その見どころを紹介する。 【写真を見る】前作の予習は必要か?どの映画館で見るのがベストか?
未来を視た人たちへ
『デューン 砂の惑星PART2』はどこで観るかが重要な映画だ。本当に面白い映画は時代も場所も超えて、たとえ自宅だろうが、通勤途中のスマートフォンで観ようが面白いという事実はたしかにあるが、本作はそうではない。画面の下に現れるシークバーを操作して、気になるシーンを何度も見返し、その撮影や編集、演出のテクニックに酔いしれるのではなく、求められているのは劇場で体験すること。旅行ガイドブックを眺めるのではなく、実際にその場所に行って圧倒されること。そう、今、劇場の暗闇の中にあるのは、砂の惑星そのものなのだ。 フランク・ハーバートが1965年に発表した小説『デューン砂の惑星』は、様々な芸術家に影響を与えてきた。そして、10代の初めの頃に読んだ監督ドゥニ・ヴィルヌーブも例外ではなかった。白い余白と黒い文字の羅列が生み出す深淵からのメッセージを受け取った少年は、未来をその目で見た。スクリーンに投影されるのは、少年が夢に見た惑星アラキスの砂漠で、観客も、そこに誘われることになる。 架空の世界を舞台に、まるでギリシャ神話のような宮廷ドラマが展開され、原作が長編のシリーズ小説となれば、映像化する際にドラマ形式を選択することもできたはずだ。実際に2000年と2003年にはドラマシリーズとして『デューン/砂の惑星』、『デューン/砂の惑星II』が作られている。ピークTVとも呼ばれ、ドラマ作品の傑作が多く誕生した2010年代以降、『ゲーム・オブ・スローンズ』や『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』、今年で言えば『SHOGUN 将軍』の例もあるが、ビッグバジェッドの時代劇をドラマシリーズのナラティブで作れるにもかかわらず、ヴィルヌーヴ監督はシネマにこだわった。現在の映画業界を考えれば3部作のSF大作という企画自体が夢のようだが、本作の特異性をさらに際立たせているのがIMAXでの上映形式だ。 ■IMAXで観るのが断然オススメ! 『デューン 砂の惑星PART2』は1作目同様に画面の縦と横の比率、アスペクト比がシーンによって「1.43:1」に切り替わる作品だ。2010年以降に限定しても、このIMAX規格のアスペクト比のシーンがある映画はたった16本だけで、年に1本くらいのペースでしか公開されていない。なぜ、こんなにも少ないかといえば、そもそもこのアスペクト比で上映できる劇場自体が少ないからだ。 6階建てのビルと同じ高さ、縦に大きい巨大スクリーンの「IMAXレーザー/GTテクノロジー」の劇場は日本でも、東京の池袋グランドシネマサンシャインと大阪の109シネマズ大阪エキスポシティの2館しかない。通常のIMAXの劇場でもアスペクト比の最大は「1.90:1」なので、「1.43:1」の作品を上映すると画面の上下は切れてしまい、完璧な状態では観れないのだ。可能であれば池袋グランドシネマサンシャインか大阪エキスポシティ、それが難しいのであれば(上下は切れてしまうが)通常IMAXで観るのがオススメだ。ちなみに、日本では今年公開の『オッペンハイマー』も「1.43:1」のシーンがある作品なので、観るのが望ましい劇場は上記と同じである。 ■前作の予習は必須? さっそく劇場に行きたいところだが、その前に前作を観ておくことも重要だ。『デューン 砂の惑星PART2』は、1作目のラストシーンの直後から始まるからだ。舞台は10190年、ティモシー・シャラメ演じる主人公ポール・アトレイデスは、夢を通して未来を視ることができる。夢に導かれるように砂漠の惑星アラキスに移住するが、そこで宿敵ハルコンネン家と宇宙皇帝シャッダム4世の策略で襲撃されてしまう。なんとか逃げ延びたポールと母親のジェシカは、アラキスの先住民、砂漠の民のフレメンと行動を共にすることになる。 今回の2作目では、ポールはフレメンたちを統べて復讐のために動き出し、ジェシカが所属する政治を裏で操る宗教組織ベネ・ゲセリットの動きも活発化する。なるべくなら1作目を観ることが望ましいが、それが億劫で劇場での体験を逃してしまうくらいなら、大まかなあらすじや登場人物、設定や用語などを頭に入れて、いきなり2作目から観るのもいいと思う。とにかく配信ではなく、劇場で『デューン 砂の惑星PART2』を観てほしい。 ■もはや宗教体験としてのデューン IMAXのアスペクト比「1.43:1」の映像を劇場で観る体験は驚くべきものだ。私は何度行ってもまともに見ることができない。今までの映画の見方がまったく通用しないのだ。とにかくスクリーンが大きすぎる。前述したように、このアスペクト比の映画はほとんど作られていないため、作り手にとっても観客にとっても映画のフロンティアであり、あらゆる可能性が開かれている。ドゥニ・ヴィルヌーブ監督は今回、この形式を使うことで、小説『デューン砂の惑星』を巨大な宗教画として映像化してしまった。 原作小説を聖典として、それを宗教画のようなショットの連続で見せていく。アスペクト比「1.43:1」の巨大四角形の画面は、どの美術館にも収まりきらない巨大な壁画となって観客の前にそびえ立ち、目の前でつねに変化し続ける。クローズアップからロングショットへ、ミクロとマクロが一瞬で交差することで意味が生まれてしまう映画の魔法が、ほとんど暴力にも近い迫力で目の前を覆い、縦の大きさを活かした上下の運動は、砂漠(重力)と宇宙(無重力)のイメージをシームレスに繋げる。自然光を意識した撮影により、暗いシーンから明るいシーンに移ると、観客はほんとうに目を細めながら眩しいと感じ、映画が光の彫刻であることを思い出す。劇場でスマートフォンの光が嫌われる理由はそのためだ。 人の声を中心としたサウンドはゴスペルのように荘厳に響き、劇場を新しい教会としてデザインしてしまう。そして、なんと言ってもティモシー・シャラメの顔だ。映画に愛された俳優の顔を高さ18メートルのスクリーンでまともに観れる人がいるのだろうか(いや、いない)。このようにドゥニ・ヴィルヌーブの『デューン』は徹底して宗教的なのだが、今回の続編はその危険性について描かれている。 ■英雄に気をつけろ 『デューン 砂の惑星PART2』で、ポール・アトレイデスは英雄になる。闘牛をしていたかつての叔父の姿と重なるように、巨大な砂虫(サンドワーム)に挑み、乗りこなしてしまう。巨大スクリーンでそのシーンを体感すれば、誰もが「彼は英雄だ!」と興奮するだろう。抑圧者から迫害されているにもかかわらず、領主会議(国際社会)に無視され続けてきたフレメンたちは、与えられた預言と英雄にすがるしかない。話し合いで解決できる段階はとうの昔に過ぎ去り、このまま何もしなければ虐殺されてしまう。その時、ポールの手に核兵器が渡り、アラキスの砂漠は私たちの世界と地続きになる。 モントリオール理工科大学でのスクールシューティングをモノクロ映像で描いた『静かなる叫び』(2009年)、レバノン内戦を背景に遺児の双子が父親を探す旅に出る『灼熱の魂』(2010年)など、ドゥニ・ヴィルヌーブ監督は初期作から一貫して、武力による革命、宗教や信仰の対立、戦争にカメラを向けており、それは『デューン』も例外ではなく、残念ながらイスラエル軍によるガザ地区への攻撃が止まない国際情勢においては、今日的な問題を描いた作品になってしまっている。このあまりに救いがない現在への異議申し立てのすべてを担っているのが、ゼンデイヤが演じたチャニである。劇場の暗闇で観客に祈りを強制するようにデザインされた今回の『デューン 砂の惑星PART2』において、チャニだけが熱狂からは最も遠い意思の判断によって、真の祈りを体現している人物だ。チャニは怒りを奥底に秘めながら、未来でも過去でもなく、まぎれもない現在を生きているわれわれ観客をじっと見つめ、私たちになにができるのかを問いかけてくる。 『デューン 砂の惑星PART2』は、誰もが知っている過去の大作映画を彷彿とさせるシーンを丁寧に挿入している。『2001年宇宙の旅』(1968年)のスターチャイルドのような胎児のクローズアップ、『地獄の黙示録』(1979年)のヘリコプターのようなオーニソプターの編隊飛行、『アラビアのロレンス』(1962年)でロレンスが夢に見た「清潔さ」を湛えているアラキスの砂漠。これらを引用しながら、画面は横長のシネマスコープではなく、スクエアスクリーンにすることで、新しい大作映画の未来を示している。ぜひ、劇場で体感してみてほしい。その熱狂と、大いなる矛盾を。 『デューン 砂の惑星PART2』 3月15日(金)全国公開 配給:ワーナー・ブラザース映画 © 2024 Legendary and Warner Bros. Ent. All Rights Reserved IMAX® is a registered trademark of IMAX Corporation. Dolby Cinema is a registered trademark of Dolby Laboratories.
文・島崎ひろき、編集・遠藤加奈(GQ)