内戦危機? イエメンで何が起こっているのか
(1)イエメンがさらなるテロ組織の拠点に 統治能力の低下によるテロ分子や武器の流入。シーア派のホーシー派に対抗するため、スンナ派部族の一部がテロ分子(スンナ派)と連携する動きが報じられています。また昨年、イエメンのアル=カーイダ勢力はシリアやイラクの「イスラム国」に共闘を呼びかけています。今年3月にはイスラム教シーア派の礼拝所(モスク)を狙った複数の自爆テロ事件が起こり、「イスラム国」を名乗る犯行声明が出されました。本物かどうかは分かっていません。また、今年1月には欧米の大使館が閉鎖しましたが、その後もイエメンに残って対テロ作戦を行っていたアメリカ特殊部隊も、治安上の理由でイエメンから撤退しました。イエメン中央政府がうまく機能していない今、テロ組織は野放し状態です。 (2)湾岸産油国への悪影響 イエメンでの宗派間紛争という認識はシーア派住民を抱える湾岸産油国の内政を刺激する可能性があります。また、アラビア半島で最大規模の自国民人口を誇るイエメンから大量の難民が産油国に流出するかもしれません。いずれも石油の安定供給に影響しかねません。 (3)国際的な貿易ルートに障害 イエメンは欧州とアジアを結ぶ重要な海上拠点に位置しており、同国の混乱は海上貿易ルートを脅かします。島国である日本は貿易量の99%以上(トン数ベース)を海上交通に頼っており、年間およそ1600隻の日本関係船舶がイエメン付近の海域を通過しています。 タワックル・カルマン女史が2011年にノーベル平和賞を受賞したので、イエメンのことを覚えている人もいるかもしれません。イエメンの政権交代は、大統領の暗殺や亡命ではなく、交渉と合意により実現した点で他の国と異なりました。この交渉を仲介したのが欧米とサウジなど周辺国でした。これら諸国は新しいイエメンづくりにも深く関与してきました。イエメン国内だけでなく、同国に関わる諸国間においても共通したイエメンの将来像を描けるかが問われています。 (川嶋淳司/イエメン地域研究)
------------------------------------------------------- ■川嶋淳司(かわしま・じゅんじ) 1982年静岡県生まれ。放送大学非常勤講師のほか駐日イラク共和国大使館に勤める。クウェート国大使館職員、在イエメン日本国大使館専門調査員等を経て現職。最新論文は「ホーシー派が揺さぶる連邦制国家イエメンへの道」(日本エネルギー経済研究所)。早大社研博士課程に在籍中