内戦危機? イエメンで何が起こっているのか
宗派間対立とテロの拠点化リスク
現在、国連が現地入りして仲介努力を続けていますが、なかなか糸口がつかめずに苦労しています。それは、ハーディー大統領とホーシー派の主張が真っ向から対立しているからだけではなく、それ以外の複雑な構図も関係しています。「アラブの春」で退陣するも強い影響力を残す前大統領、2011年に反体制デモを主導した若者層、旧南イエメン地域の分離独立運動を支持する人々、政府の統治が及ばないのをいいことに勢力を伸ばすテロ組織などなど、様々な役者がイエメンを舞台に見得(みえ)を切っています。事態の収拾にはどうしても時間がかかるでしょう。 したがって短期的には、対立そのものを解決することよりも、状況を管理・統制して対立を紛争化させない仲介努力が求められます。その向こうに中長期的な解決の糸口が見えるはずです。 欧米やサウジアラビアは自らが標的となったテロ攻撃を過去に受けていることから、イエメンに潜伏する組織「アラビア半島のアル=カーイダ」(スンニ派) を非常に警戒しています。米国や国連は、政治的な混乱がテロ組織の拡大につながることを懸念し、欧米に協力的なハーディー大統領を中心に据えて事態の打開に取り組んでいます。 一方、イランはイスラム教の同じ宗派に属するホーシー派への支援を掲げているため、これを警戒するサウジアラビアなどの湾岸諸国は反対にハーディー支持を強く打ち出しています。ホーシー派と同じイスラム教シーア派のイラン、ハーディー大統領と同じスンナ派が指導者層の多くを占める湾岸諸国―――サウジとイランの地域的なライバル関係がイエメン政治に反映されています。 今年初めのイエメン情勢の悪化は、新憲法案をめぐる国内的な対立がもともとの発端でした。しかし、これに地域的なライバル関係が覆いかぶさることで宗派対立へと転化する危険性があります。宗派間の対立感情が燃え上がると紛争の解決はより難しくなります。対立の原点である新憲法案、新しい政治体制づくりの在り方といった政策論議に丁寧に落とし込んで、妥協の余地を細かく探る仲介の労が実れば、着地点を見出すことは可能でしょう。これに失敗した場合、次のようなリスクが考えられます。