「斎藤元彦氏」再選…そのとき兵庫で何が起きていたのか 当初「40人ほどだった聴衆」が投票前日には「身動きが取れないほどの群衆」に
前知事の訴えが県民の心を掴んだのか、SNSに煽られただけなのか──。兵庫県民ではない人間にとっては、巨大な疑問符が浮かぶ選挙だった。11月17日に兵庫県知事選の投開票が行われ、前職の斎藤元彦氏が約111万票を獲得。次点となった元尼崎市長稲村和美氏は97万票だったため、約14万票の大差を付けて再選を果たした。選挙戦当初は、全く予想されなかった展開と言っていい。 【写真】まばらだった支援者が、凄まじいまでの群衆に膨れ上がる衝撃のビフォア・アフター。投票日の直前には斎藤氏の姿が見えないほどに ***
ネット世論にしても当初から“斎藤支持”が大勢を占めていたわけではない。8月23日、百条委員会が県職員に対して行ったアンケート調査の中間報告が行われ、何と4割の職員が知事だった斎藤氏のパワハラを見聞きしていたと回答。これに対して、Xは憤りの声で溢れた。 《おとなしそうな顔をして、とんでもない野郎》、《知事は当然辞職すべきだし遺族に慰謝料払うべき》──。 ところが今、Xを検索してみると、次のような具合だ。《この人パワハラしないでしょ》、《斎藤氏はほぼシロ、パワハラおねだりもない》、《証拠の音声が出てこないあたり斎藤知事のパワハラ疑惑は悪意ある偏向報道の可能性を疑う方が合理的》 一体、このわずかな期間に何が起きていたのか。 9月19日、兵庫県議会は全会一致で斎藤知事の不信任決議を可決。10日以内に県議会を解散しなかったことで、斎藤氏は30日付で知事を失職した。出直し選挙は10月31日に告示されたが、この時点では稲村氏が圧倒的に有利だと見られていた。 ところが選挙戦が終盤を迎えた11月10日、朝日新聞デジタルは「稲村氏がやや先行 斎藤氏が激しく追う 兵庫県知事選 朝日情勢調査」との記事を配信。稲村氏が《やや先行》としながらも、斎藤氏が《激しく追っている》と伝えた。
「マスコミは嘘を付いている」の声
告示の日から、わずか10日という短期間で、斎藤氏は“兵庫県の恥”から“県議や周辺首長、オールドメディアなど既得権益層の打破に立ちあがった正義の味方”に評価が変わってしまった。なぜ、こんなことが起きたのか。現地で精力的に取材を重ねていたジャーナリストの吉富有治氏に尋ねた。 「私は10月3日の午前7時半、JR芦屋駅で辻立ちする斎藤さんの様子を取材しました。現地に着くと、30人から40人くらいの支援者がいました。女性が目立っているのが印象的でしたね。一般のボランティアスタッフは見かけず、手伝っているのは市会議員など地方議員が中心でした。ところが投開票日の前日に当たる11月16日に神戸市三宮センター街で行われた最後の街頭演説を取材しようと訪れると、様子が一変していたのです。誇張ではなく、大変な人混みで全く身動きが取れませんでした。群衆のあまりの多さに、この時、斎藤さんの再選を確信しました」 吉富氏が周囲の有権者に取材を依頼すると、「斎藤さんは悪くない」、「新聞社やテレビ局など、マスコミは嘘をついている」との回答が多い。マスコミが「兵庫県知事選はSNSが勝利し、オールドメディアが敗北した」と報じた通りだった。