【本と名言365】荒川修作|「…芸術家が作品をつくるぐらいひどいことはないんです。」
これまでになかった手法で新しい価値観を提示してきた各界の偉人たちの名言を日替わりで紹介。ニューヨークを拠点に世界で活躍した美術家で建築家の荒川修作。数少ない対話集には衝撃的な言葉が残っている。 【フォトギャラリーを見る】 作品、作品と言っているけれども、芸術家が作品をつくるぐらいひどいことはないんです。 1957年から「読売アンデパンダン展」に出品し、60年には赤瀬川原平ら若手アーティストからなるネオダダグループに参加。翌年には渡米し、以後ニューヨークを拠点に活動した荒川修作。同じく美術家であるマドリン・ギンズとの共作は、著作から建築まで多岐に及んだ。共作としての代表作のひとつ《遍在の場・奈義の龍安寺・建築する身体》(以下《奈義》)が完成した94年の秋に、哲学者で『知の技法』の編者の1人としても知られる小林康夫と知覚心理学などを専門にするカリフォルニア工科大学教授・下條信輔と鼎談をしている。 タイトルも解説もなしに《奈義》を提示したらどうなるか? 作品の意図にたがう楽しみ方をされたらどう思うか? と尋ねる下條に、荒川は意外な応答をする。「作品、作品と言っているけれども、芸術家が作品をつくるぐらいひどいことはないんです」。作品がどうこうというのは制度、体制にからめとられている。そうではなくもっと大きな実験をしたい、と続ける。文字面を追う限り、しばらく下條は沈黙してしまう。 こうした、浮世離れした応答は少なくない。小林があとがきでも書いているとおり「春」について尋ねれば、「月には春があるかねえ」とひらりとかわされてしまう。一筋縄ではいかない対話集だが、「もっと大きな実験」として翌95年に完成する岐阜の〈養老天命反天地〉の構想を語る箇所などは貴重。かつてマルセル・デュシャンに「おまえのような人間が少しまともなことを言いだしたら、みんなは怖がるぞ」と言われたという人間味のあるエピソードも必読だ。
あらかわ・しゅうさく
1936年愛知県生まれ。60年、赤瀬川原平らが参加し、東松照明らが写真を残したネオダダグループに参加。61年に渡米し、のちにマドリン・ギンズとの共作がスタート。94年、磯崎新設計の〈奈義町現代美術館〉にマドリン・ギンズとの共作《遍在の場・奈義の龍安寺・建築する身体》を製作。ほかの主な作品に〈養老天命反転地〉(95年、岐阜)、〈三鷹天命反転住宅〉(2005年、東京)など。10年没。
photo_Miyu Yasuda text_Ryota Mukai illustration_Yoshifumi Tak...