なぜ、幸齢者が世界で一番賢い国は日本なのか?【草野仁×和田秀樹⑤】
がんばれよ、ニッポン
和田 なので草野さんのように「人材が資源だ」と言われて育った世代の人には、まだまだ活躍して欲しいと思います。 草野 まだまだやれることはある、と? 和田 例えば「世界一の幸齢者向けクルマ」を早くつくるとか「指が動かなくても使える幸齢者向けスマホ」とか。70代の7割はスマホを使ってるわけですから。その優秀な世代が引っ込むのは、もったいないです。 草野 元気が出ますね。 和田 なのに今の日本は「幸齢者は邪魔だ」と追い出しにかかっています。それが間違いなんです。「おまえらのほうがバカなんだから黙ってろ」と言ってやればいいんですよ(笑)。 草野 (笑)。
テレビが面白くない。もっと面白くしてよ
和田 テレビ番組だって、ゆとり教育の弊害としか言いようがない”ぬるいお笑い”ばかりだと思いませんか。 草野 手厳しい(笑)。これにはテレビ界の歴史的な流れも関わっています。実は1990年ぐらいにバブルが崩壊して、テレビ界がその波を被り始めたのが2000年くらいでしたね。 和田 お金ですか? 草野 はい。例えば19時から20時までの番組の予算が2000万円だったとして、それが1200万円に減らされた。でもその予算ではできないから、「2000万円ほしい。その代わり2時間で」という感じになったんです。くわしい数字は言えませんが、予算投下力は20年くらい前とは、全然違います。現場は非常に苦しい状況に置かれているんですよ。 和田 なるほど。だったらテレ東さんのように「金がないなら工夫で勝負」みたいにすればいいのに。『なんでも鑑定団』とか『YOUは何しに日本へ?』など、好奇心旺盛な人が好みそうな番組をつくっていますよね。テレビ離れした若者ではなく、知的な幸齢者を狙っている。テレ朝の『相棒』は昔の『水戸黄門』のように人気です。知的な幸齢者は考えるのが好きなんですよ。草野さんの『世界・ふしぎ発見!』も知的好奇心を狙った素晴らしい番組でしたが、たぶん予算的に厳しくなった…(笑)。 草野 (笑)。あの番組は1986年のスタートでした。当時は土曜日の”ゴールデンタイム”トータル視聴率が80%もありましてね。つまり8割の家庭がテレビを見ている状況でした。 和田 そうでしたね。 草野 ところが現状は40%ほどで、昔の半分以下になっています。そんな状況で、視聴率を調査する専門会社が突然、集計の仕方も変え始めました。 和田 以前とは違う集計の仕方で、数字が減ったことを隠したわけですね(笑)。 草野 (笑)。工夫したんです。「13歳~49歳の人が視聴者として大切だ」という論理で、その数字を前面に出すようになった。その結果、かつては2桁で「人気番組」と言われたものが、今では5%、4%台になってきています。 和田 実際に一番テレビを見るのはお年寄りですよね? その世代をカウントしないなんて、そもそもおかしい話です。 草野 仰る通りです。しかも、この世代はお金を持っている。 和田 BSはそれがわかっているから、朝からテレビショッピングをやるんでしょ? 幸齢者もつまらない番組を見るより、そのほうが夢を与えてくれるからつい買っちゃう。こんな状況では、若い人がテレビに戻ってくることはなさそうですね。 草野 ないです。 和田 例えば草野さんがやってる健康番組なども安心感があります。それに、幸齢者は経験豊富で目が肥えていますからね。そういうことを考えて番組をつくったらいいのに。まあ、私のような素人が言うべきことではありませんが。でも、草野さんのような”テレビの宝”みたいな人をもっと大事にしたらいいと思いますけどね。 草野 いやいや(笑)。 ※和田秀樹は、「高齢者」ではなく「幸齢者」と呼ぶ。 和田秀樹/Hideki Wada 精神科医。1960年大阪市生まれ。東京大学医学部卒業。現在、立命館大学生命科学部特任教授、和田秀樹こころと体のクリニック院長。老年医学の現場に携わるとともに、大学受験のオーソリティとしても知られる。『80歳の壁』『70歳の正解』など著書多数。 草野仁/Hitoshi Kusano キャスター。1944年旧満州生まれ。東京大学文学部社会学科卒業後、NHKに入社。1985年に退社しフリーに。『太陽生命 Presents 草野仁の名医が寄りそう! カラダ若返りTV』(BS朝日)でMCを務める。『「伝える」極意』(SB新書)が発売中。
TEXT=山城稔 PHOTOGRAPH=筒井義昭