公開前の映画『正体』が3冠で物議…「報知映画賞」の特殊な選考事情と気になるファン組織票
暮れの映画賞レースが始まる中、先月25日に発表された「第49回報知映画賞」が映画関係者の間で話題になっている。公開前の藤井道人監督、横浜流星主演、吉岡里帆共演の「正体」が、作品賞、主演男優賞、助演女優賞の3冠に輝いたのだ。報知映画賞の選考基準は「前年12月1日から今年の11月30日までに、1週間以上一般公開、もしくは公開予定の新作」を対象にした賞で、作品賞や主演、助演などの各個人賞は、「ファン投票上位から報知映画賞事務局が、作品15、個人10、アニメ5をノミネートして、その中から選考委員会で賞を決定する」となっている。 【写真】「能登半島地震被災地ドリームジャンボ」発売記念イベントに登場した吉岡里帆 同作は11月29日公開で、映画賞の発表は25日。「1週間以上一般公開」には当てはまらないけれど、辛うじて「公開予定の新作」に該当する。ポイントは「ファン投票上位からノミネート作品」が決まる点だ。 「公開前に、果たしてファン投票で『正体』が上位に来るほど一般の人が映画を見ているのか。もちろん、劇場試写もあったので一概には言えないわけですが、何度か開催された一般への劇場試写だけで上位に食い込むのはやはり疑問です」(広告代理店) 選考に関しても、11月12日にノミネート作品が発表され、25日に各賞が決定。その後に作品が29日公開となると、宣伝としてはオイシイ話。実際、「正体」は、公開日からの週末興行ランキングで1位を飾った。これをデキレースと言っている記事もあるが「怖いのはファンが操作できてしまうこと」と映画ライターの金澤誠氏がこう言う。 「映画を見ていようが見ていまいが、ファン投票の数を積み上げれば、ノミネートができる。もしかしたらですが、横浜流星の根強いファンの層から『報知映画賞』が選ばれたかもしれないということです。私が選考委員をしている『毎日映画コンクール』『キネマ旬報ベスト・テン』などは、映画関係の識者数十人が投票します。『キネ旬』は単純に票数が多い作品、『毎日』は、1次選考で票数が多かったものをノミネート、そこから選考委員が選んでいきます。今年から選考方法が少し変わりましたが、識者だけで選ぶこと自体は変わっていません」 「キネ旬」「毎日」にも別枠でファン投票で選ぶ賞はあるものの、メインの賞でファンの介入はない。しかし「報知映画賞」に関しては、ノミネートまでなら、組織票を形成できる。 2021年に三浦春馬の遺作「天外者」がキネマ旬報「読者選出日本映画ベスト・テン」で第1位を受賞。作品がずばぬけているかというと、業界内ではそこまで高評価ではなく、「ファンが追悼の思いも兼ねて組織的に投票したのでは。彼が亡くなっていなかったら1位にならなかったのでは」という見方があった。 「しかし、今回は公開前に組織票が形成されているのが怖いこと。最終的には選考委員が選んだわけですが、SNSで急激なムーブメントが起きると、公平性を保とうと作った選考基準がいとも簡単に覆される。ノミネートのプロセスに関しては、かなり釈然としないし、組織票にも怖さを感じます」(金澤氏) 作品自体の評価は高いだけに、ファンの厚意であっても出演俳優にはありがた迷惑な話かもしれない。 期待が高まる2025年の大河「べらぼう」だが、「サブタイトルが付くNHK大河は数字的にパッとしないジンクス」があるという。