「女のくせに―」 東日本大震災で被災の兼子さん 防災と男女共同参画語る/兵庫・丹波市
兵庫県丹波市の男女共同参画講演会がこのほど、春日文化ホールで開かれた。東日本大震災で被災しながら、まちづくりに取り組む宮城県石巻市の一般社団法人「りとりーと」代表の兼子佳恵さん(53)が、「みんなの視点でできる防災―わたしもあなたも大切な“命”」と題して講演した。要旨をまとめた。 震災前、私はごく普通の主婦だったが、少しだけ市民活動をしていた。長男を21歳で産んだ時、周囲からは出産に反対されたし、出産後も相談をできる人がいなくて育児ノイローゼになった。そんな経験があったので、「何もできないけれど、誰かの話を聞くことはできる」と思ったのが市民活動を始めるきっかけだった。 2011年3月11日、東日本大震災が発生した。強烈な揺れと津波に襲われ、家の周囲は3日間、水が引かなかった。幸い、家族は無事だったが、多くの友人、知人を亡くした。 震災の2カ月後にNPO法人「石巻復興支援ネットワーク」(通称・やっぺす)を立ち上げた。何も分からないけれど、「何かやらないといけない」という気持ちだけだった。 当時、「頑張ろう」という言葉をたくさんかけてもらったが、「これ以上どう頑張ればいいのか」という気持ちになったこともあったので、「一緒にやりましょう」という意味の方言「やっぺす」を通称にした。 私たちは仮設住宅のコミュニティー支援や女性の仕事づくり、ボランティアの受け入れなど、さまざまな活動をしてきた。 今日は男女共同参画講演会だが、活動の中では、「女のくせにかわいげがない」「女はもう少しバカな方がいい」「女がやることじゃない」など、女性として生きることがしんどくなるような言葉をぶつけられたこともあった。 女性だけではない。「子どもや高齢者に何ができるのか」「障がいのある人や外国人には何もできない」などの声も聞いた。 それらの言葉に、「それは違うでしょう」と思っているのに言えない自分が悔しかった。 男女や家庭環境など、生まれながらにしての平等はないかもしれない。でも、そのことで差別を受けるのは違う。男でも女でも、子どもでも高齢者でも、お互いにできることがあって、それを認めていくべきだと思う。「できないこと」を見つけるのではなく、それぞれに「できること」を見つけてほしいと思う。 話を震災に戻す。災害が起こると避難所ができるが、1、2日ならなんとかなる。でも、始めのうちこそ子どもたちの声に「元気がもらえる」と言っていた人が、いつしか「うるさい」と許せなくなる。この場合、子どもたちが遊ぶ場所を別に確保しておけばよかった。 丹波でも自治会長さんたちは災害が起きると避難所運営をされることになると思うが、どうしたらトラブルが起きないかを考えておくことが大事。ポイントは相手の立場に立つことだ。 それと被災者がボランティアなどの支援に慣れ過ぎると、支援がなくなったときに「被害者」になってしまう。支援に頼り過ぎるのではなく、自分たちでできることを考えて、みんなで支え合うことを大事にしてほしい。 また、平時から備えも大切。私がおすすめしたいのは「防災ポーチ」を作っておくこと。例えば、消毒や圧縮タオル、携帯電話を充電するバッテリー、リップ、あめなどを入れたポーチを、いつも持ち歩くかばんに入れておく。意識して準備をするということが重要で、一度、家族で話し合って作ってみてほしい。 災害の被害を軽減するために、地域の人々が互いに連携していく社会は、とても良い社会。「誰か」ではなくて「誰も」が。「いつか」ではなくて、「今」をどうしていくか。完璧でなくていいので、そのときの最善を見つけてほしい。 そして、地域はとにかく「お互いさま」。「助けて」がちゃんと言えて、ちゃんと「断れる」環境づくりが必要。そんな地域づくりのために、何か一つでも東日本の経験が役に立てばうれしい。