その抑うつ症状、実は更年期ではなく「うつ病」などの精神疾患かも!?【更年期症状と間違えやすい病気に要注意! ⑦】
更年期症状としてよく挙げられる、イライラやクヨクヨといった精神症状。更年期だと思っていたら、実は「うつ病」だったという例も少なくないそう。その差はどこにあるのか? 女性医学の専門医である小川真里子さんに伺った。
更年期になるとうつ病も増える
ちょっとしたことでイライラしたり、突然悲しい気分になる、前向きな気持ちになれない、漠然と将来を悲観してしまう、夜眠れないといった症状はないだろうか? 精神面が不安定になるのも、更年期になるとよく現れる症状だ。 「こうした精神面の不調から仕事に影響が出たり、家事がまったくできないなど、生活に支障が出るようになって来院する人は少なくありません。 このように、抑うつ症状を訴える女性は、更年期にはその前と比較して1.8倍になるという報告※1 があります。 そして、更年期症状だと思って受診した女性のうち、女性ホルモン(エストロゲン)の分泌低下が原因で更年期障害と診断された人は27.0%、うつ病を含む気分障害だった人は27.6%、不安症(不安障害)が12.3%と報告※2 されています。 それが更年期障害なのか、うつ病なのかを鑑別するのはとても難しいのが現状です」(小川先生) ※1 出典/Timur S, Sahin NH : The prevalence of depression symptoms and influencing factors among perimenopausal and postmenopausal women. Menopause 2010; 17: 545-551. ※2 出典/後山尚久: 更年期・老年期 更年期のうつ. 臨床婦人科産科. 2011; 65(4): 531-535
うつ病は命にかかわる重大な病気なので、放置は禁物!
「それが、精神疾患の範疇に入らない、更年期でよくみられるものであれば、状況や訴えをしっかりと聞いて、HRTを含む薬物療法で体の不快な症状を取り除くことで改善が期待できます。 しかし、更年期に起きたうつでも、うつ病といえるような状態だと精神科での治療が必要です。もともと、うつ病の既往のある人は、更年期に再発リスクが高まるという報告もあります。うつ病は重度になると自殺願望が出ることもあり、命にかかわる重大な病気。決して放置しないでください」 【こんな症状があったら精神科の受診を!】 1. 過去1カ月間で、気持ちが落ち込んだり、憂鬱な気分、絶望的な気分になった。 2. 過去1カ月間で、しばしば小さなことに悩まされたり、何をしても楽しくないと感じた。 出典/中国・香港中文大学のKelvin K F Tsoi教授ら、The British Journal of Psychiatry誌オンライン版より 「これに加え、メンタル不調以外の更年期の症状がなかったり、月経の状態などから更年期とは考えにくい場合は精神科の受診をおすすめします。 うつ病の診断は、他の病気の可能性がないかを考えたうえで、精神疾患の診断・統計マニュアルに基づいて行われます。 精神科のうつ病の治療には、脳や体を休ませる十分な『休養』をとることを第一に、抗うつ剤などによる『薬物療法』、心理的・社会的背景に目を向けた『精神療法』などがあります。 症状がやわらいだからと、自己判断で治療をやめてしまうのはとても危険です。うつ病は再発率が高いので、医師のもと、しっかり時間をかけて治療することが大切になります」
【教えてくれたのは】 小川真里子さん 産婦人科医、医学博士。福島県立医科大学 ふくしま子ども・女性医療支援センター 特任教授。日本産科婦人科学会・日本女性医学学会女性ヘルスケア専門医・指導医。専門は更年期医療学、女性心身医学、女性ヘルスケア。相談やカウンセリングを中心としたケアサポートとともに、最新のテクノロジーや視点を取り入れて、更年期を取り巻く環境や文化を積極的にアップデート。 イラスト/内藤しなこ 取材・原文/山村浩子