「リアルで演じたらバズっちゃった」『地面師たち』で脚光の“ライフ俳優”が語る壮絶半生
時代は昭和から平成へと元号が変わったころ。そのまま劇団に残って裏方として生きていく選択肢もあったが、五頭はどうしても俳優を続けたかったという。 「医者は“もうやめなさい、次の仕事を探しなさい”と言うんだけど、もう40過ぎてるしね、潰(つぶ)しがききませんよ(笑)。それでまだしばらくは検査があったり、リハビリや入院もあったので、時間の融通がきくエキストラとして映像の仕事を始めたんです」
“Oneday、OneScene役者”
ようやく体調が全快したのは55歳。それを機に本名の漢字を変えて芸名にしていた小林直二から、故郷の山『五頭連峰』から名前を取り、五頭岳夫と改名した。 「名前も何も、もう全部捨てました。昔の台本とかも全部処分して。それでアメリカとヨーロッパを1か月半くらい旅してきました」 エキストラの仕事は約10年続け、その間『池袋ウエストゲートパーク』『木更津キャッツアイ』『白夜行』など多くの作品に出演。その状況が変わったのは2007年、エキストラとして所属していた事務所が新たにマネージメントのための会社をつくると知り、懇願して所属俳優として契約したことだった。そこで最初に出た作品が三木聡監督の映画『図鑑に載ってない虫』。 「そのときにホームレス役をやって、それから立て続けにホームレスばっかり4本か5本続いてねぇ。まあ僕には大臣や学校の先生役なんて来るのは、めったにないけど(笑)」 五頭は自らを“Oneday、OneScene役者”と笑う。ワンシーンのみの出演で、1日で撮影が終わる役者、ということか。 「でもね、そのワンシーンで視聴者、監督、スタッフにインパクトを与えられるか考えてましたね。ホームレスでもどんな格好をしてるのか役柄で違いますし、腰の曲げる角度を変えるだけでみすぼらしく見えたり、立派に見えたりする。なので役作りのため、自前の帽子なんかを持っていったりしてましたよ。すると違う現場へ行くと“この間◯◯で一緒でしたね?”ってよく声かけられるようになって。 後になると若手だった人が監督になって、僕にオファーしてくれたりね。『地面師たち』の大根仁監督も、ドラマ『リバースエッジ 大川端探偵社』でご一緒したのが最初です。しかも今回の島崎役は監督から“五頭さんに当て書きした”と言われてね。うれしかったなぁ」 最近ではドラマ『虎に翼』、映画『若武者』、さらには『水曜日のダウンタウン』などさまざまな作品に出演。令和にバズった五頭。今後は? 「もう来るもの拒まんで、なんでもやります。そうしないと、ご飯食えないから(笑)」 あなたが次に見るドラマに五頭の姿があるかも? (文中、敬称略) 取材・文/成田全