35人死亡し現場は血の海…中国で無差別殺傷事件が多発する理由、「社会への不満」で日本人も標的になる恐れ
■ 日本人は自衛を強化する必要がある たとえば最近の中国で話題になった、若者が夜に自転車に乗って鄭州から開封に行く「開封夜騎」と呼ばれた集団行動も「情緒感染」的だ。6月に最初にこうした行動をとった4人の女子大生やそれをまねし始めた大学生たちにも、もともとは明確な理由などなかった。 だが、それが大勢の人々に共感を呼び、拡大していく過程で、五星紅旗を掲げたり、「台湾統一は必然」「日本軍国主義を打倒せよ」といったプラカードを掲げたりして、政治的意味を持ちだした。最終的には鄭州の公道が自転車で身動きが取れないほどの集団行動に拡大した。この行動がコントロールを逸することを当局が恐れて、11月9日には河南省の大学では学生たちの外出が禁止されてしまった。 中国専制政治には、周囲と同じ方向に走り出しやすい中国社会の状況を都合よく利用しようとするズルさがある。そして、こうした情緒感染的な集団行動が政治的意味を持ちやすい環境は、専制政治がそれをコントロールできなくなったときに、誰にも止められない暴走エネルギーとなりやすい。それは、ときに政権を転覆させる革命になったり、国家を長期間、機能マヒに陥らせたりするのだ。 中国共産党がすぐに情報を封鎖したり、隠蔽したり、あるいは人民の移動統制を強化したりするのは、中国人の「情緒感染」の怖さを知っているからだろう。 中国で仕事をしたり、留学をしたり、生活をしたりする邦人に伝えたいことは、今の中国社会で、人民が受ける抑圧、ストレスが非常に大きく膨らんでおり、こうした情緒感染による暴力事件、群衆事件がかなり起きやすくなっているということだ。 一度起きた事件のパターンは連鎖し、模倣され、繰り返されやすい。日本人は、そうした抑圧のはけ口になる可能性があるということを、改めて繰り返しておく。くれぐれも、巻き込まれないように自衛を心がけるようにしてほしい。 福島 香織(ふくしま・かおり):ジャーナリスト 大阪大学文学部卒業後産経新聞に入社。上海・復旦大学で語学留学を経て2001年に香港、2002~08年に北京で産経新聞特派員として取材活動に従事。2009年に産経新聞を退社後フリーに。おもに中国の政治経済社会をテーマに取材。主な著書に『なぜ中国は台湾を併合できないのか』(PHP研究所、2023)、『習近平「独裁新時代」崩壊のカウントダウン』(かや書房、2023)など。
福島 香織