『ファンタジアン ネオディメンジョン』坂口博信氏インタビュー。『ファイナルファンタジー』を遊んでいたときの“なつかしさ”と“いま”だからこそ遊べる要素が詰まった“集大成”と呼べるRPGに!
2024年12月5日、スクウェア・エニックスよりNintendo Switch、プレイステーション5(PS5)、プレイステーション4(PS4)、Xbox Series X|S、PC(Steam)向けに『FANTASIAN Neo Dimension』(ファンタジアン ネオディメンジョン)が、ついに発売された。 【記事の画像(13枚)を見る】 『ファイナルファンタジー』シリーズ生みの親であり、ミストウォーカーを率いて数々の作品を送り出してきた、坂口博信氏。そして、『ファイナルファンタジー』シリーズのみならず、数多のゲーム音楽を手掛け、世界を舞台に活躍する音楽家の植松伸夫氏。 このふたりがタッグを組んだ『FANTASIAN Neo Dimension』は王道のファンタジーRPGとなっており、さまざまな魅力に満ち溢れている。個性的な登場人物たちが織り成す、多次元世界を舞台にしたストーリー。“エイミング”や“チェンジ”、“ディメンジョン・システム”といったシステムが実現した、戦略性の高いバトル。そして、実際に作成されたジオラマを取り込んだフィールドが生み出す、唯一無二のあたたかな冒険……。 どこかなつかしくもありながら、いまのゲームらしさもある。そんな新しい体験が楽しめる『FANTASIAN Neo Dimension』。その誕生はもちろん、開発における挑戦と実現に至るまでの道のり、そして本作に込めた想いを、坂口博信氏にじっくりと語っていただいた。 坂口博信(さかぐち・ひろのぶ): ミストウォーカーCEO。『ファイナルファンタジー』シリーズの生みの親であり、『ブルードラゴン』、『ロストオデッセイ』、『ラストストーリー』、『テラバトル』など多数の作品を手掛ける。2021年4月(前編)から8月(後編)にかけてオリジナル版となる『FANTASIAN』をApple Arcadeにて配信。『FANTASIAN Neo Dimension』ではプロデューサーを務める。 ――『FANTASIAN Neo Dimension』で初めて『FANTASIAN』に触れる読者もいると思いますので、そもそも『FANTASIAN』がどのようにして生まれたのか、そのお話もお聞きします。『FANTASIAN』は王道のRPGと言える作品ですが、まずは開発の経緯をお聞かせください。: 坂口: あちこちでお話させていただいていますが、ファミ通さんの企画がきっかけです。2018年に 『ファイナルファンタジーVI』(以下、『FFVI』)をクリアーまで実況配信をする番組があったんですよね(※)。そこで、僕や当時の開発スタッフたちと毎週のようにプレイしました。 ※ニンテンドークラシックミニ スーパーファミコンの発売を記念して、収録されている『FFVI』を坂口氏がクリアーまでプレイする番組を、全11回に分けて配信。 坂口: 自分で作ったゲームは、発売されると案外プレイしないものなのですが、実際に改めて自分で遊んでみると、「ああ、僕はこういうクリエイターだよな」と見つめ直すことができました。 そこで、「もし自分の引退作を作るとしたら、カッコつけずに素直な気持ちで自分なりのゲームを作ったほうがいいんだろうな」と思ったことが『FANTASIAN』につながりました。ですから、ゼロから「こういった作品を作ろうと思った」のではなく、『FFVI』の延長線上に『FANTASIAN』があるということになります。 ――それが理由なのか、当時に『FFVI』で感じたあたたかさが、『FANTASIAN』にはあると思いました。 坂口: 『FF』のときから思っていましたが、多くのゲームは敵との戦いがメインになるため、殺伐としがちなんです。でも初代『FF』を開発したときから、ファミリーコンピュータでゲームを遊ぶ子どもたちのことを考えたら、物語や世界観であたたかい気持ちをプレイヤーの心に残すことはすごく大事だと思っていました。 そう考えながらゲームを作り続けた結果、いまの時代になっても、その感覚は残ったままだったのかな……と。どのような道筋を描いても、最後はあたたかいものがプレイヤーの心に残ること、これは僕にとって外せないのかもしれません。 ――こちらもいろいろなところでお話しされていると思いますが、『FANTASIAN Neo Dimension』がスクウェア・エニックスから発売されることになった経緯を教えてください。 坂口: そのきっかけも、2021年の東京ゲームショウでファミ通さんが企画した、吉P(吉田直樹氏。スクウェア・エニックス 取締役/執行役員/クリエイティブスタジオ3 スタジオヘッド。2010年12月に 『ファイナルファンタジーXIV』のプロデューサー兼ディレクターに就任し、現在は『ファイナルファンタジーXVI』のプロデューサーも兼任)との対談ですね。 坂口: この対談の前に、じつは一度だけ吉Pとお会いしたことがありまして。 『FFXIV』が“新生”するということで、吉Pが「『ファイナルファンタジー』に関わるのであれば」と、僕のところまで挨拶しに来てくれたんですよ。挨拶する必要なんて、もちろんなかったのですが(笑)。 ――それが初対面だった、と。 坂口: 正直、それまで吉Pがどんな人なのか、情報が何もなく、アクセサリーをジャラジャラ着けた男がいきなり現れたので、「なんだこいつ!?」と驚愕しました(笑)。もちろん以前から 『FFXIV』の存在は知っていましたが、プレイすると絶対にハマってしまうことがわかっていたので、あえてプレイしていなかったんですね。 そこから、先ほどお話しした東京ゲームショウでの対談企画が立ったとき、「『FFXIV』を遊ばないのは失礼だろう」と、ハマることを覚悟してプレイを始めたのですが、ご存じの通り、もうズブズブになりまして(笑)。 そこから吉Pとは、ある意味でひとりの『FFXIV』ファンというか、『FFXIV』を作った人とご飯を食べられるのが楽しくて、ちょくちょく会っていました。その中であるとき、吉Pに「『FANTASIAN』の家庭用ハード版が発売できないだろうか」と相談したのが『Neo Dimension』の発端です。 ――オリジナル版を開発していたときから、家庭用ハード版の発売を考えていたのでしょうか?: 坂口: 『FANTASIAN』のIPはすべてミストウォーカーが保持していて、Apple Arcadeでは期間内のみ独占で配信し、その期間が終われば、タイトルをどのように扱うのかは自由に決定できる状況にあります。『FANTASIAN』はオリジナル版の制作当時、本当に自分の引退作と思っていたのですが、頭の片隅には「せっかく作ったのだから、より多くの人に遊んでもらいたい」という気持ちはありました。 その独占期間が終わったタイミングで、たまたま吉Pに相談できたのは大きかったですね。相談するタイミングを狙っていたわけではなく、ファンとしてただ『FFXIV』を遊びまくっていただけなのに、自分のゲームが吉Pにつながったのは不思議ではあります(笑)。 とはいえ、吉Pもスクウェア・エニックスの一員ですから、個人の考えだけではプロジェクトは始動できません。しっかりと社内でプレイや市場調査なども重ね、そこからスクウェア・エニックス内部の許可を得て、きちんと企画として成り立つことになりました。 吉Pをはじめとするスクウェア・エニックスの方々が判断し、「ぜひやりましょう」となったときは、とてもうれしかったです。 ――古巣とも言えるスクウェア・エニックスでご自身のゲームが発売されるというのは、どのような感覚でしょうか?: 坂口: 僕の作品がスクウェア・エニックスから出ることに対して、スクウェア・エニックスにいる方々はどう捉えるのだろうかと、正直わからないところがありました。 ただ、やはり吉Pとのつながりのおかげで、そういった不安も消えていったと思います。ひとりの『FFXIV』ファンとして「やった、吉Pに自分のタイトルを売ってもらえる!」ともなりました(笑)。 これがもしスクウェア・エニックスのほかの部署から出るのだったら、踏みとどまっていたかもしれません。それだけ吉Pとクリエイティブスタジオ3に対する信頼は大きかったですね。 ――『Neo Dimension』の注目ポイントのひとつに、多岐に渡るマルチプラットフォーム展開がありますが、これはスクウェア・エニックス側が決めたのでしょうか? 坂口: 発売するプラットフォームについては、スクウェア・エニックスによる判断ですね。今回はPS4でも発売されましたが、僕自身は最近のゲーム市場をよくわかっていないところもあって「PS5だけでもいいのでは?」と思っていたのですが、PS4のユーザーにも届けたほうがいいと。 ――スクウェア・エニックスから発売されること、複数のプラットフォームに対応することについて、ミストウォーカーのスタッフはどのような反応がありましたか? 坂口: 喜んではいましたが、「この対応プラットフォームの多さは本当ですか?」と驚いていましたね。一方で、実作業を担当することになった中村(中村拓人氏。 『FANTASIAN』ではディレクター兼メインプログラマーとして活躍。『Neo Dimension』でもディレクター兼メインプログラマーを務めた)は、そもそも淡々とした男なので、すんなり受け入れて「やれますよ」と答えてくれました。中村がいないと、マルチプラットフォームの対応は無理だったかもしれませんね。 ――Nintendo Switchはもちろん、Xboxでも発売されるのを知ったときは「ああ、世界を狙っているんだ」と思いました。 坂口: Xboxでは 『ブルードラゴン』や『ロストオデッセイ』を作っていたこともあり、「またXboxに戻ってこられた」と感慨深くなりました。 任天堂さんのハードであるNintendo Switchでも発売できることが、とてもうれしくて。やはり任天堂は自分をクリエイターにしてくれた存在ですから。それにもちろんプレイステーションも本当にひさしぶりで、やはり『FFVII』のころを思い出して感慨深いです。 いろいろな想いを振り返りつつ、iOSに対応する作品が引退作と考えていたのに、結果としてあらゆるプラットフォームで発売することが『FANTASIAN』の終着点になった。僕としては『Neo Dimension』でよりフィナーレを迎える感覚が強まりましたが、以前もお話ししたように、これで最後ではなく新作を作っています(笑)。 ――Apple Arcade版はiOSのデバイスに合わせてゲーム画面を構築したと思うのですが、本作のマルチプラットフォーム展開に合わせて調整を加えているのでしょうか?: 坂口: ゲームプレイの部分は変わっていませんが、細かい要素は調整しています。たとえば、移動スピードが1.2倍ほどに上昇していますし、キャラクターがキビキビと動くようになっています。もとはタッチ操作をメインに考えていたのですが、コントローラーで遊ぶことを前提にした作りにもなっています。 また、オリジナル版はデバイスによっては画面比率が大きく違い、ほぼ正方形に近かったり、はたまた横に長くなったりしていたので、それぞれに対応する必要がありましたが、本作は基本16:9の画角で統一できました。 坂口: なお、画面サイズも上がったので、UI(ユーザーインターフェース)を小さくして、いま風の画面作りにすることも可能でしたが、今回はあえてもとのサイズをそのまま残しています。UIのデザインには、昔からひとつの“美学”があると思っていて。表示できるモノの数や大きさが制限される画面環境でも、しっかりとプレイヤーが快適に遊べるUIを組む。これは、すぐれたゲームデザインのひとつの重要な要素だと思っています。 その美学を壊したくないので、あえてオリジナル版を残しました。フィールドに関しては、オリジナル版はゲームデータを最適な容量にするために解像度を下げる必要があったのですが、今回はPS5版とXbox Series X版、Steam版で4K解像度に対応しています。ジオラマで作られた風景を、より高精細な画質で楽しめるようになりました。 ――高解像度になることによって、見えなかったジオラマの粗なども目立ってしまうのでは? と思うのですが……。 坂口: その“粗”を見てほしいんですよ。「あ、ここに接着剤の痕がある!」みたいな(笑)。人が作った世界だとわかってほしいと言いますか……。3DのCGでパーツが欠けていたらバグになるかもしれませんが、ジオラマではそこが“味”になるんですよね。 ――以前にジオラマの実物を見させていただきましたが、ジオラマ職人の方々による作り込みにはもはや「ここまでやるんだ」という執念すら感じました。: 坂口: こちらがお願いしていない部分まで、こだわって作り込むことがあたりまえの方々なんですよね。たとえば、ウズラ号の内部は見えない部分まで作り込んであって、真っぷたつに胴体を切っても、図鑑にあるような断面図が見られるんです。 だからこそウズラ号の中身を見せたくて「実際に爆破しよう」と考えましたが、すごい勢いで止められてしまいました。でも、そのおかげで東京ゲームショウ2024のブースにウズラ号のジオラマを飾ることができたので、やらなくてよかったですね(笑)。 ――そもそも、ジオラマをゲームの背景にしようと閃いた経緯は?: 坂口: 仕事部屋にジオラマをひとつ飾っていたのですが、ふとしたときに「あれ、この中を歩けたらおもしろいんじゃないか?」と閃きまして。 『テラウォーズ』のような、クレイモデルをゲームに取り入れるアイデアも実現していますから、ジオラマに角度をつけて撮影してゲーム内に取り込み、その上に3DCGのキャラクターを歩かせるという企画を作り込んでいったのが始まりですね。 坂口: 当初はジオラマをスキャンして3DCGにすればゲーム内に落とし込めると思っていたのですが、最新のスキャン技術でも難しいことがわかりました。ジオラマのディテールがあまりにも細かいと、細部まで3D化できないんです。それがわかった時点であきらめようかと思ったこともあります。 そんなときにミストウォーカーのスタッフが、とある撮影手法を探してきてくれました。実際に試したところ、その方法がうまくハマったんです。そこからスキャンしたデータと撮影した写真を組み合わせる、『FANTASIAN』のスタイルが生まれました。これが成功していなかったら、いまの状況はあり得なかったでしょう。 企画をスタッフに見せたときは「これが本当におもしろくなるのか?」と不安がっていた印象がありますし、かなり実験的なスタートとなったので「うまくいかないかも」といった声もありましたが、結果的にはうまくいきました。 ――カメラの画角を利用した探索という、ジオラマだからこそ実現できた要素は楽しかったです。: 坂口: あれはスタッフが考えてくれたもので、僕も遊んだときにはジオラマらしくてとてもよかったと感じました。裏側まで作り込まれているジオラマが見られますから。これが3DCGだったら、とくに何も思わないかもしれません。「このジオラマは裏側まで作られているんだ」とわかったときの感動は、本作ならではですね。 そもそも、視点が回り込むようにしてカメラが切り替わるのも、中村が作った“発明”でした。『FANTASIAN』の制作の中で、たくさんの新たな手法が生まれているんです。 ――ちなみに、ジオラマ職人の方々は『Neo Dimension』の発表に対してどういった感想を語られていましたか? 坂口: とても喜んでいただけましたが、それよりも「坂口さんのゲームがスクウェア・エニックスから出るのですか!?」みたいな声のほうが大きかった(笑)。 ――さすが『FANTASIAN』のジオラマを作ってくれた方々ですね。ボイス対応も『Neo Dimension』ならではの追加要素ですが、これはスクウェア・エニックスからの要望だったんですよね。: 坂口: 僕としては、ゲームも小説を読むような感じで、想像の余地を残しながらテキストを読み進めることのほうが楽しいと考えていたんです。ですが今回は、「ボイスに対応したほうがいい」と説得されました。 昔からそういった主義でゲームを作ってきたのですが、実際にボイスに対応したシーンを観て、「これはとてもいいぞ」となりました。『Neo Dimension』を自分でプレイして、話の内容はすべて把握しているのに、新鮮な気持ちで『FANTASIAN』をもう一度遊ぶことができたんです。声優さんたちの演技もすばらしくて、ボイスを採用してよかったと思っています。 ――ボイスの収録に当たって、坂口さんが演技指導などをされたことは?: 坂口: いいえ、僕はそこについての知識がありませんので。もちろんチェックはしていますが、キャスティングやディレクションなどはスクウェア・エニックスさんにお任せしました。 坂口: ボイスがついたことで、とくにチクッタ&ハクッタの印象が大きく変わりましたね。「こんなにカワイイ声だったのか。これはとてもいいぞ」と。ハクッタの声をチェックしているとき、たまたまそれを聴いたゲームを知らない家族が「おもしろい!」と食いついてきたので、「これは成功している」と実感しました。 ――難易度選択も加わりました。: 坂口: オリジナル版は、とくに後編からのバトルバランスがピーキーすぎたかもしれないと、自分でもわかっていて……。引退作をうたっていたこともあって「簡単にはクリアーさせないぞ!」と思っていた節があったのかもしれません(笑)。 もちろん、エンタメ作品としてプレイヤーたちが楽しめるゲームにすることはプロとして大前提にあるのですが、最後くらいは骨太なゲームに寄ってもいいんじゃないか、と。主要な開発スタッフも攻略できたので、そのままリリースしてみたところ、プレイヤーから「後半はエグい」という声が寄せられて、「これはエンタメ作品としてよくなかったな」と反省しました。 今回は多くのプレイヤーに楽しんでほしいという目標がありましたから、元来の“エンタメ作品のプロ”としての気持ちに徹しました(笑)。 坂口: バトルのバランスも含めて調整を加えた難易度を“ノーマル”としました。ただ、オリジナル版の難度でもクリアーできるように開発しましたし、ピーキーな難度も手間を掛けて作ったゲームバランスではある。ただ消すのはもったいないと思い、オリジナル版の難易度として“ハード”を実装しています。 ――本作では『FF』シリーズの楽曲を戦闘時のBGMに流せるようになっていますが、これもよく考えたらスゴい話ですよね。ふつうはあり得ないというか……。: 坂口: 思いついたきっかけは、シンプルに 『FFXIV』で聴く過去作のアレンジBGMが好きだからですね。本作のチェック中にふと思いついて、『Neo Dimension』のBGMをミュートにして、『FFXIV』内で過去作のBGMをかけてバトルしたら、すごくカッコよかったんですよ(笑)。いずれの作品の音楽も植松さん(植松伸夫氏。作曲家として『FF』シリーズをはじめ、数多くのゲーム音楽を手掛けている。本作ではすべての楽曲を植松氏が作曲した)のメロディーだから、ゲームに自然とマッチするのでは? と。 ミストウォーカーのスタッフにこのアイデアを話したら「何を言っているんですか!?」と驚かれましたが、植松さんに相談したら「おもしろいじゃん」と言ってくれて。さっそく裏では北瀬(スクウェア・エニックスの北瀬佳範氏。『FFVII』リメイクプロジェクトプロデューサーなどを担当)に「『FFVII』の曲もなんとかできないかな?」ってこっそり聞いたりしました(笑)。 そこから正式に吉Pに相談した結果、『FFXIV』の曲を流す許諾をいただきました。そうしたら欲が出たのか、次第に欲しい楽曲が増えていって(笑)。『FF ピクセルリマスター』や『FFXVI』の曲も採用できるように、スクウェア・エニックスさんが動いてくれました。 坂口: 言いかたは悪いかもしれないのですが、初代 『FF』のBGMを流しながら『Neo Dimension』のバトルをプレイしたら「え、これはもう『FF』じゃん」と感じる人は多いかもしれません(笑)。当初はただ僕個人の欲望を叶えたかっただけなのですが、結果としてプレイヤーの皆さんがおもしろいと感じてくれたらうれしいですね。 ――オリジナル版ではゲーム内でちょっとしたパロディーや『FF』ネタを楽しめましたが、本作では削除されたり変更されたりしているのでしょうか?: 坂口: とくにありません。そのままの形になっていますよ。そこは“もとのよさ”として、変えないほうがいいのかなと思って残しています。 また、これは小さなネタですが、ゲーム内で見られるキノコ鍋のレシピは、行きつけのお店を採用しています。本作は実在するジオラマの世界ですが、じつはレシピも実在するものなんです。 ――Nintendo Switchを含め、あらゆるプラットフォームでリリースされることで、坂口さんが作ったゲームに本作で初めて触れるという人もいるかもしれませんね。: 坂口: 『Neo Dimension』が初めてという人がいたらうれしいですね。『FFVI』の延長線にあると言えるゲームですが、当時『FFVI』を作ったときは、小学校の高学年くらいの年齢層のプレイヤーに、ちょっと背伸びする感覚で楽しんでほしいと考えていたんです。『Neo Dimension』は12歳以上対象となりますが、『FANTASIAN』はいまの若い子たちにも楽しんでもらえる作品を目指していました。 坂口: 『FFVI』を楽しんでくれた大人の世代の方々は、王道のRPGが持っている“なつかしさ”を楽しんでもらえると思います。新作ではありますが、まるで昔に『FF』を遊んでいたときのようななつかしさを感じつつ、いまだからこそ遊べる要素や、本作ならではのジオラマの風景を楽しんでほしいです。 ――先ほどもおっしゃっていましたが、いまは新作も制作されているんですよね。 坂口: はい。現在は新作を作っていて、スタッフは 『FANTASIAN』を作り上げたすばらしいチームとなっています。AAAタイトルと比べれば小規模ですが、それでもプログラマーが4人しかいないことが想像できないようなゲームになっていると思います。 『FANTASIAN』の開発を通して、すばらしいチームとゲームを作っていたいという気持ちが湧き上がりましたし、何より「このチームから離れたくないな」という思いが、新作に結び付きました。ゲームの制作には苦しさもありますが、それよりも楽しさのほうが上回っています。ゲーム制作そのものが、余生の楽しみにつながったと言いますか(笑)。気持ちのいいスタッフたちと、新しいゲームをいつかお届けできればと思います。 ――最後にお聞きしてもいいですか? 東京ゲームショウ2024のステージでもお祝いされていましたが、坂口さんにお孫さんが生まれました。お子さんやお孫さんが生まれたことは、ゲームクリエイターとしての坂口さんに何かしらの影響を与えたのでしょうか? 坂口: 子どもが生まれたときは、 『FFVI』のエンディングが変わりましたね。ティナの描きかたが変わったんです。ですから、もしかしたらいま作っている新作にも、初孫が生まれたことでプロットに変更があるかもしれないと、スタッフたちが戦々恐々としています(笑)。 ――ということは、新作のプロットはできているのですか? 坂口: はい。物語のプロットは固まっていて、それに合わせて開発が進行しています。なのに、初孫の影響でシナリオやキャラクターの設定が変わったらどうするんだ!? と(笑)。 ちなみに、植松さんが「初孫誕生の記念にプレゼントを贈りたい」と言ってくれたので、『FF』の楽曲の譜面サインを書いてほしいとお願いしたら、「いや、お孫さんのために新曲を作る。歌詞も付ける」と言ってくれて。ですから、植松さんは現在、僕の孫のために新曲を制作してくれています。もしかしたら新作に孫の歌が収録されるかもしれませんね。プレイヤーは聴いてもわからないとは思いますが(笑)。 ――新曲も楽しみにしています(笑)。ありがとうございました!