アンカーとして20年、ケン・マスイが語る“コミュニケーションの本質”
コミュニケーションは、お互いの“影”を共有し“光”を生み出すこと
では、このようなポリシーを持つケン・マスイ氏に、現代人の人間関係やコミュニケーションに潜む課題はどのように見えているのでしょうか。 ケン・マスイ氏は、この点について「今の人たちは、みんなが“セルフプロデュース”をしているのではと感じます。それが逆にみんなを苦しめているのではないでしょうか」と指摘。 つまり、それが自分自身のリアリティであるか否かを問わず、人に対して自分自身をどう印象付けるか、自分自身がどんな人間に思われたいかを意識しすぎるがために、それが日常のコミュニケーションに閉塞感を生み出してしまっているのだというのです。時には、自分自身の本音を押し殺して“良い印象の自分”を演じていることもあるのではないでしょうか。 しかし、ケン・マスイ氏は、「人間はみんな陰湿な生き物だし、心のどこかで嫌なことも考えているのでは。時には、人の悪口も言うこともあるでしょう。しかし、そういう影の部分に光を見出そうとしているものではないでしょうか。例えばパーティの司会をしていて、参加者の心の底にある“陰”にあえて触れるようなブラックジョークを言うと、逆にそこで共感が生まれて場が一気になごむこともある。お互いの“陰(ネガティブな思考)”を分かり合い、“陽(ポジティブなシーン)”で繋がりたいと欲することが、コミュニケーションなのではないでしょうか」と語ります。 例えば、表向きはポジティブな交流を行っていても、実はその中で本当に意気投合するのはちょっとした愚痴=本音が共有できた相手だったりするものです。その人の本音に潜む、少しネガティブな影の部分まで共有できた上で関係を築いていくことが、本当に信頼できる相手を見つけ出す上で重要なのかもしれません。 もちろん、自分自身のネガティブな感情も含めて考え方の方向性が一致するという相手はそう多くはありません。しかし、ケン・マスイ氏は「本当に信頼できる相手は数人で十分ではないでしょうか。本音を語り合える存在がいることが、日常生活の良い“ガス抜き”になるのかもしれないですね」と語っています。自分自身の全てをさらけ出し、“陰”でも“陽”でも繋がれるかどうかが、自分自身にとって本当に必要な人間関係を作り出す上で、大切なことなのです。 「人間は、表に見えているものが全てではないと思います。表面的には見えない、その人の本質的な部分で繋がれるかどうかが、人間同士の信頼関係を生み出す上で一番大事なことではないでしょうか」。 (取材・執筆:井口裕右/オフィス ライトフォーワン)