アンカーとして20年、ケン・マスイが語る“コミュニケーションの本質”
こうした“知ったつもり”は、現代のマスメディアにも大きな課題を生み出しているとケン・マスイ氏は語ります。「例えば、日本のニュース番組の司会者は、報道するニュースに対して白黒はっきりさせてしまおうとする傾向にありますが、果たしてそれでいいのかとも思います。その意見は司会者がそのニュースの現場で見たこと、感じたことに基づいているものではないことも多い。結論を与えるのではなく、課題や論点を提起することがニュースの役目なのではないでしょうか」。 加えて、ニュースが物事の本質を理解しないで誤った印象を世の中に与えてしまうことにも疑問を投げかけています。「世の中はメディアから得られる情報を鵜呑みにしないことが大切なのではないでしょうか。また、現時点でそのような事を既に感じているSNSユーザーなどは多いと思います」。
本物を知るという“実体験”の積み重ねが、自分自身の人間力を創り出す
こうしたリアリティを追求するケン・マスイ氏の姿勢は、これまでラジオDJとして海外アーティストなどに4000本以上のインタビューを行ってきた経験でも活かされているといいます。「アーティストにインタビューすること自体は難しくありません。しかし、そのインタビューを通じて相手と良い距離感を築けるかどうかは、その会話の中で信頼関係が生まれるかどうかに懸かっています。そこで求められるのは、自分自身に“人間力”があるかどうかではないでしょうか」。 その“人間力”とは自分自身のリアリティであり、そのリアリティはリアルな体験が創り出すもの。実体験を通じて本物を見て、本物を体験して、本物を知ることで、考え方やリアルな知識といった自分自身のリアリティが形成され、それが重なり合うことで相手との意思疎通が可能になり、良好な人間関係が生み出されるのではないでしょうか。 「人によって持っているリアリティ=実体験は異なり、そこで生み出される考え方や意見も異なります。相手とセンスや考えが一致する必要はありません。一方で、自分の実体験にないこと=“知らない”ということを隠す必要もありません。重要なのは、相手の立場を想像しながらリアルをさらけ出し、時には砕けた話もしながら、相手が自分の本音=自分のリアリティを話したくなるような雰囲気を作り出すことではないでしょうか。インタビューでも、相手に“いいたことが言えた”と思われるより、“あなたとまた話がしたい”と思われるほうがいいと思っています」。 ケン・マスイ氏のこうしたインタビューに対する姿勢からは、人間関係の構築において重要なのは相手に懐を開き、誇張も脚色もないリアルな姿を見せていくことであり、その前提として求められるのは、自分自身が様々な経験、体験を通じてリアリティを創り出していくことだということがわかってきます。