アンカーとして20年、ケン・マスイが語る“コミュニケーションの本質”
日常生活やビジネスにおけるコミュニケーションで、最も難しいことは何でしょうか? この質問に対して、「自分の意見をまとめて、表現することだ」と答える人も多いと思います。しかし、実はコミュニケーションにおいて最も大事なことは、自分の言葉で表現すること以上に「相手の話を聞く」「相手から話を引き出す」ことなのではないでしょうか。自分の意見を形成するためには、まず相手の意見を聞き出し、それを理解する作業が重要になってくるのです。
では、相手から上手に話を引き出して良いコミュニケーションを生み出していくために、必要なものとは何なのでしょうか。1995年にカナダでラジオDJとしてデビューし、1996年からは名古屋のFMラジオ局「ZIP-FM」でミュージックナビゲーターとして登場。J-WAVEなどでも活躍し、手掛けた海外アーティストへのインタビューは4000本以上にのぼります。 また一方、Jリーグ名古屋グランパスエイトのスタジアムDJを10年に渡り務めたほか、今月開催された「Jリーグ・チャンピオンシップ」や「Jリーグアウォーズ」など数々のスポーツイベントでMCとして活躍するケン・マスイ氏に、約20年に渡るアンカー(司会者・ナビゲーター)としての経験から、“コミュニケーションの本質とは何か”を伺いました。
新聞記者だった父から学んだ、“実体験”の大切さ
ケン・マスイ氏は、1972年東京生まれ。政治記者だった父親の都合で2歳から16歳までの時間をアメリカのワシントンDCで過ごしてきました。父の背中を見てきた経験が、現在の自分の姿に大きな影響を与えているといいます。 「記者というのは、取材主義であり現場主義。伝えることの根底には記者自身の実体験があるのが当たり前で、その父の姿を見て自分自身も“実体験”のないことは言いたくないと思うようになっていきました」とケン・マスイ氏は当時の影響を語ります。この“実体験”をコミュニケーションの拠り所にするという姿勢はその後の仕事にも活かされ、Jリーグ名古屋グランパスエイトのスタジアムDJに起用されてからは、生きたサッカーを体感するために海外サッカー留学まで経験。徹底して実体験に基づいたコミュニケーションを追求しているのだそうです。 このような“実体験”にこだわるケン・マスイ氏の姿勢は、ネット上に様々な情報や映像コンテンツが溢れ、実際に行かなくても、体験しなくてもバーチャルに様々なものごとを疑似体験できる現代社会とは正反対にあるものなのかもしれません。しかし、テレビやスマートフォンの画面を通じて映し出される映像と、実際にその現場で感じるリアリティとの間には大きなギャップがあり、その場所で見たり、聞いたり、体験したりすることで得られる発見は、バーチャルな体験では得られないもの。実際に行ってもいないこと、体験したことではないことを拠り所に話をすることは、結果“知ったつもり”の域を出ることはないのでしょうか。