三冠王座を5か月で失った「リングの貴公子」安齊勇馬だが「三冠第二章」に向け早くも発進
【柴田惣一のプロレス現在過去未来】
「最年少三冠王者」安齊勇馬が8・17東京・立川大会で青柳優馬に敗れ6度目の防衛に失敗。「三冠第一章」は約5か月で終幕した。 【動画】青柳優馬と熱闘の末、王座陥落の安齊勇馬が悔しさを爆発させる それでも安齊の奮闘は色あせない。3・30東京・大田区大会で外敵・中嶋勝彦から「王道の象徴」三冠王座を全日本プロレスに取り戻した。デビュー2年目、24歳での戴冠に期待とともに不安の声が渦巻いていた。 「大丈夫なのか」「まだ早い」という冷めた視線を、徐々に跳ね返してきた。V1(5・29東京・後楽園大会=宮原健斗)V2(6・24後楽園大会=鈴木秀樹)V3(7・13大阪大会=諏訪魔)V4(7・20後楽園大会=本田竜輝)V5(8・3宮城・仙台大会=斉藤レイ)と防衛を重ねるにつれ、その顔はたくましくなり、ファイトも磨かれ、王者としての貫禄も徐々に醸し出されるようになってきた。 「約束」というキーワード、指切りポーズもすっかり様になっている。 王座奪取からチャンピオン・カーニバル(CC)を経て、3か月の間にそれぞれファイトスタイルの違う挑戦者を退けV5を飾ったのだから大したもの。CCの覇者・宮原との初防衛戦をしのいだことで、自信をつけた。「立場が人を作る」と言うが、まさに安齊の三冠ロードそのものだ。 月に2回の防衛戦というハードスケジュール。いかに5月15日に25歳になったばかりの安齊をしても「大変でした」ということだろう。 安齊は仲間たちとチーム「EL PIDA・エルピーダ(ギリシャ語で希望)」を結成し、ファンとの約束を大切にしている。これまでのチャンピオン像とは一線を画してきた。 とはいえ「プロレスラーはどんなに追い込まれても立ち上がる。ファンの人たちが僕たちを見て、少しでも勇気と元気を得てもらったら…。僕たちは皆さんの応援にパワーをもらっていますから」という点は、昭和、平成、そして令和へと続く「プロレスの力」そのものだ。 「何度やられても跳ね返す安齊さんを見ていると、何でもできそうな気がします。よし! 自分も頑張るぞと思います」と熱いファン。それこそ「仕事を頑張る」や「勉強を頑張る」「闘病を頑張る」など、それぞれのファンが心の中で指切りした「安齊との約束」を守ろうと前向きになる。 「プロレスの力」は昭和、平成、令和と時を重ねても不変だが、安齊が進むチャンピオンロードは令和流。ユニットを王者がリードしてきた従来の構図とは一味違う。 ELPIDAのメンバーとは仲間そのもの。ユニット名もみんなでアイデアを出し合い決めた。それぞれの役割も流動的だ。各自の得意とする分野で先頭に立つのは自然の流れだが、それも臨機応変。本田竜輝、綾部蓮、ライジングHAYATOが、時にはメンバーを鼓舞し、ムードメーカーになったりする。 「各自、もちろん全力投入ですが、熱くなり過ぎた時には、誰かがブレーキをかけてくれる。そこには序列もない。楽しくやっています。でも、もちろんみんなライバル。切磋琢磨して行きます」とニッコリ。 思えば、ファンのプロレスの見方も時の流れとともに変わってきている。雲の上の人だったプロレスラーは今や等身大。ファンとの接点を大切にし、SNSを駆使し自ら発信している。身近な存在であり、みんなの頼もしい兄貴であり、可愛い弟分であったりする。 ファイトスタイルも技はスピードアップし、必殺技も多様化。一撃で決着は難しく、必殺技の積み重ねが必要。得意技の名前も選手自らが命名している。 「令和の風」が誰よりも似合っているのが安齊ではないか。若くイケメンなのに粘り強い。一見するとソフトだが、実は「剛」を秘めている。 試合後、新王者・青柳が差し出した右手を拒否。ベルトを奪われた青柳とは握手する気はない。「俺はまだ握手なんかしない。必ずあなたに勝ちます。あなたを超えていく存在だと思っています。握手はその時まで。今、握手したら何かが止まっちゃう気がしたから」と負けん気の強さを見せた。 三冠王座の魔力にも取りつかれてしまった。「三冠ベルトを持つ喜びを、持っているから見える景色を知ってしまった」と告白。だからこそ一瞬たりとも止まる気はない。「またあのベルトをいただく」と意気込む。 「もっともっとチャンピオンロードを歩みたかった。みんなと一緒にもっと先まで行きたかった」とSNSで発信。ファンの思いを大切にする安齊勇馬が「三冠第二章」へのスタートを切った。
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