アルツハイマーの予防に効く?「40Hz」と「深い睡眠」の実にふしぎな共通点
8Hzや80Hzなど他の周波数では効果なし
この研究の結果、0.05Hzの遅い周期の脳波(徐波)に連動して脳血流量が増減しており、血流量が減ったタイミングで隙間を埋めるように脳脊髄液の大きな流れが生じていることが人ではじめて実証されたのである。0.05Hzの徐波は覚醒中にはほとんど出現せず、睡眠中、特に深いノンレム睡眠中に増加する。脳のお掃除機能が夜間に活発になる理由もこれで明らかになった。 徐波活動――脳血流の増減――脳脊髄液の動きという一連の流れで示されるように、グリンパティックシステムの発見当初は不明であった脳脊髄液の流れの原動力が脳血流の増加であることが示唆されたのもこの研究での大きな発見であった。 実際、冒頭で紹介したマサチューセッツ工科大学の研究では脳脊髄液を脳内に送り込む際に動脈の血流増加と脈動pulsationが重要な働きをしていることも明らかになった。さらに興味深いことに、40Hzの音/光刺激が筒を形成しているグリア細胞にある「アクアポリン4」と呼ばれるタンパク質を活性化することで脳脊髄液の流量を増やしていることも示された。アクアポリン4は細胞膜にある水を通すトンネルで、脳脊髄液はここを通って脳内へと流れ込む。アクアポリン4を活性化するには40Hzの刺激が最も効果的で、8Hzや80Hzなど他の周波数では効果が無かったというのだから不思議である。 覚醒時には神経細胞はランダムに活動(脱同期)しており、脳血流も脳内各所でまちまちに増減している。しかし、ノンレム睡眠、特に深いノンレム睡眠では大脳皮質の広範な領域で神経活動リズムが0.05Hzのような遅いリズムで同期することで脳血流の変動リズムの振幅が共鳴して増大し、その後の脳脊髄液の大きな流動が生じやすくなっているようだ。 昼間は40Hzの感覚刺激が、夜間は睡眠が奏でる徐波リズムが脳の清掃作業を指揮しているとは、人体とはつくづく神秘的だ。 ※1 https://doi.org/10.1038/s41586-024-07132-6 ※2 https://doi.org/10.3233/JAD-230506 ※3 https://doi.org/10.1126/science.1241224 ※4 https://doi.org/10.1126/science.aax5440
(三島和夫 睡眠専門医)