【#佐藤優のシン世界地図探索76】モスクワから広告が消えたことの意味
佐藤 厳しく規制されています。だから、そういった観点で国産品を嗜好するようになりました。国産食料品のレベルがすごく上がりました。実際に食べたら本当に美味くなっています。 ただし、国産品だけを売るスーパーがある一方で、モスクワの中心部には外国製品、特に非友好国の商品だけを売る店があります。そこにはミルキーやポッキー、グミなど、西側製品が全部あるので、欲しい物は自由に購入できます。コカ・コーラもだいたい中東あたりを経由して入って来ますしね。メルセデス、BMWの専門店もあって、そこで新車も買えます。 日本製品も買えますよ。日本食レストランで、ロシアのビール『バルチカ』を頼んだら、「ごめんなさい、ありません。『一番搾り』か『アサヒスーパードライ』はあります」と言われてしまいました。 そういった感じで、国外のものも全部あるんですよ。その代わり、値段はロシア国産品の1.5~2倍します。 ――何も困っていないと。 佐藤 困っていません。トヨタ車を持っている人に聞いたら、「修理に出したら、部品が入りづらいから戻りが2~3週間遅くなった」と言っていました。その部品はどうしているのか聞いたところ、「廃車から部品を取って、とりあえず回してる」ということでした。 ――ごく一部を除いて、戦争前より確実に市民生活は良くなっていますね。 佐藤 良くなっていますよ。国産品が充実していますからね。 それから、5~6年前までモスクワの市内で100平方メートルの広さの住宅価格は平均で約1億円でした。しかし、いまモスクワは拡張しています。 まず、以前に比べて地下鉄と高速が拡張されていて、車で30~40分、地下鉄で1時間ほどの所にニュータウンを作っています。中階層20階くらいのマンションで、100平方メートルで1100万円から1800万円です。そういった物件の購入に関して、国が20年ローンを組めるようにしています。20代で家を持てるようになっているんです。 要するに、いまのロシアでは国内産業が全部軍事生産にシフトしていて、完全雇用の需要が高まっています。すると、将来の安定性が出てきて、確実に「今年より来年は良くなっている」という展望が持てているんですね。 特に、「特別軍事作戦」が始まってから、成長率が、去年が3.7%、今年の第一四半期が5%と上がっていて、目に見えて生活が変わっています。 ――いま世界で一番、そんな国になりたいのは中国でしょうね。中国における去年12月の16~24歳の失業率は、14.9%ですからね。一方、ロシアでは「俺なんか駄目だ」と思っている男性が、志願兵になると年収900万円。「君も戦ってみないか?」となれば行きますよね。 佐藤 志願兵として戦場に2年行けば、モスクワ郊外にマンションが買えます。命のリスクはありますが、年収200万円だとおそらく20年かかることを2年で実現できます。 ――まさに生き急ぐ生き方。 佐藤 西洋的な資本主義のサイクルから離脱した、ということですね。 ――それがモスクワから広告が消えた理由。 佐藤 そうなります。 ――広告によって人を刺激して、人為的な消費を作り出す経済との決別。それはやはり、進化した資本主義ではないですか? 佐藤 そういえるかもしれません。 次回へ続く。次回の配信は2024年9月27日(金)予定です。 取材・文/小峯隆生