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地域との共生がキー、日本の海に洋上風力が根づくための基礎づくりとは

提供:三菱商事

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左から岡藤裕治さん(三菱商事 エネルギーサービス本部長)、佐藤裕之さん(ウェンティ・ジャパン 社長)、信太孝之さん(銚子市 洋上風力推進室長)、黒崎美穂さん(気候変動・ESGスペシャリスト)

オンラインシンポジウム「朝日地球会議plus 世界はどう動く? COP26グラスゴー気候合意を読む」(朝日新聞社主催)が3月に開催され、エネルギーやビジネス、カーボンニュートラルなどについて専門家や企業の関係者が話し合った。
COP26(第26回気候変動枠組条約締約国会議)では、産業革命の頃からの気温上昇を1.5度に抑えるという目標が確認された。温暖化防止の切り札とされる再生可能エネルギー(再エネ)の中でも、急ピッチで導入が計画されているのが洋上風力発電だ。シンポジウムの第3部「再生可能エネルギーと地域づくり」から、洋上風力発電の現状と未来、地域との関わりについての議論をリポートする。

地域と事業者が連携し、ウィンウィンの関係を築くために

洋上風力事業の成功のカギを握る地元との関係や、地域振興策などについて、登壇者が事業者や自治体、専門家の立場から意見を出し合った。

岡藤:地元の企業や地域社会との関係は重要だと思っています。地元企業との関係では、国内・地域におけるサプライチェーンを地元の企業の皆さまとしっかりとつくり上げ、最大限活用することが極めて重要です。地元の企業の方々に参画していただくことで、部品や部材の輸送コストを低減し、運転・保守の段階でもコストを効率化できます。地域と事業者の両方にとってウィンウィンの関係がつくれると考えています。
長期にわたる事業ですので、地域の皆さまやコミュニティーとしっかりと連携し、ご賛同をいただきながら事業に努めていくことが大事です。我々は事業者選定の入札に際して、主に三つの分野での提案をさせていただいています。「持続可能な漁業支援体制」として、漁業に対する支援や共生。「地域産業・雇用の振興」は、サプライチェーンの構築等を通じた地域経済への貢献。「住民生活の支援」は、たとえば教育などの提案が含まれます。地域の関係者の皆さまと相談をしながら、具体的な施策に落とし込もうと取り組んでいます。

佐藤:秋田という地域は高度経済成長の時代に取り残され、今でも県外に働きに出る人の多さは日本有数の県でもあります。今、風は厄介者ではなく誇るべき資源なのだとようやく気付いて、洋上風力をきっかけとした産業振興が大きく前進しようとしています。
部品製造だけでなく、メンテナンスに関わるトレーニングを東アジア全体から受け入れたり、銚子市などと連携してトレーニング機関を作ったりして、オールジャパンでの取り組みを秋田から世界に向けて発信して、付加価値のある産業を育てるのが夢です。

信太:実は、秋田県の由利本荘市や能代市が中心となり、協議会をつくる取り組みを進めているところです。市町村レベルで連携を図って、国などにも要望を出していきたいと思っています。

黒崎:地域やまちづくりにどう貢献するかは、海外でも非常に重要なポイントになっています。たとえば、洋上風力のプロジェクトを地元の企業や市民グループと共同所有する例もあります。それによって雇用が生まれたり、税収が増えたり、市民には電気料金を特別割引することもできます。
スコットランドではタービンの提供会社が地元の大学と連携して、洋上風力の整備の技術者を育てるプログラムを大学に置いています。そうすることで大学が魅力を増し、いろんな学生が来て地元も繫栄して、地元の大学と企業、プロジェクト間で良い循環が生まれます。皆さまもおっしゃっているように洋上風力の事業は非常にスパンが長いので、地元だけではなく横の連携、ひいては日本を超えたアジアとの連携も、素晴らしい考え方だと思います。

岡藤:私たちも、保守・メンテナンス人材や船の船員を育成するというプログラムを、協力企業と一緒に提案させていただいており、長期的視点に立って取り組みたいと考えています。

洋上風力発電の現状と未来について、パネラーたちが意見を交わした

日本に洋上風力を根づかせるために何が必要か?

国内での洋上風力発電は、普及に向けて動き出したばかり。政府が掲げる目標を達成し、日本で洋上風力が根づくために必要なものは何かを、パネラーたちが提案した。

岡藤:洋上風力の事業が日本に根付くために事業者の視点で3点ほど指摘させていただきます。1点目は、事前の海域調査や風況調査などを事業者ごとに行うのは、非常に無駄があります。これを政府がまとめて行うセントラル方式は、日本ではまだ導入されていませんが、欧州では既にスタンダードになっています。これを導入すると、無駄な調査が減って時間とコストが軽減される。今後の洋上風力の成長にとって非常に重要だと考えています。
2点目は、制度や規制の簡素化・効率化です。迅速に洋上風力が立ち上がるうえで必要ではないでしょうか。
3点目は、入札評価の妥当性についていろいろな声が起こっていますが、私たちも現時点のルールが100%良いとは思っておりません。洋上風力の市場がより早く成長して、運転開始時期も早められるのであれば、改善していくべきです。評価のルールを変えるのであれば、透明性や公平性を担保することが、市場の健全な成長につながると考えています。

佐藤:私たちは今、秋田のさらに沖合で、浮体式の洋上風力に向けた研究事業に取り組んでいます。日本で洋上風力をさらに進めるとなると、より沖合の風のいいエリアをもう少し開発しなければなりません。日本が得意とする造船や海洋技術を活用した浮体式洋上風力を積極的に進めることが、次の課題になるでしょう。

信太:洋上風力発電を推進していくためには、海をなりわいとする漁業者と共生を図っていくことが大切です。水揚げ量11年連続日本一を誇る漁業の街の銚子で、漁業者との共生による洋上風力発電事業を「銚子モデル」として成功させたいと思います。

黒崎:環境アセスメントの簡略化と短縮化は、2050年に向けてはもちろん、2030年の中間目標の達成のためにも大事なポイントです。環境アセスだけでなく系統整備(電力を供給するシステムへの対応)も、政府がセントラル方式で行っている国がありますので、日本でも今後検討すべきかと思います。また、情報開示に関して日本は透明性があまり確保されておらず、こういった入札に関する前後の情報の開示も適宜行われるべきです。
また、何のための洋上風力か、何のための再エネかを、政府がきちんと国民に説明することが非常に大事なポイントだと思います。数のゲームや価格だけが話題になりがちですので、何のためにやっているかというところをメディアの方を含め発信していくことは、今後どうしても必要になるフェーズが来ます。

洋上風力は将来どういう存在になるべきか

最後に手書きボードを使って、これからの洋上風力発電がどうなっていくかを一言で表現。それぞれの未来への展望を示して締めくくった。

佐藤裕之さん(ウェンティ・ジャパン 社長)

佐藤:「生きがい」という情緒的な言葉を書きました。秋田のように風資源に恵まれ風力発電が盛んな地域は、日本と世界のカーボンニュートラルを支えているというプライドになるし、生活も豊かになることで風力発電が「生きがい」になるのではないでしょうか。

信太孝之さん(銚子市 洋上風力推進室長)

信太:私は「地方創生」です。海に囲まれた日本では、国産のエネルギーと言える洋上風力発電の導入を拡大していくべきです。将来、地元に洋上風力発電があって良かったと思えるように、単なる発電事業ではなく、地方創生に資する事業となるための取り組みを進めていくべきだと思います。

岡藤裕治さん(三菱商事 エネルギーサービス本部長)

岡藤:私は「未来への突破口」と書かせていただきました。洋上風力というのは単なる電力だけの話ではなく、エネルギー安全保障を含めたエネルギーそのものの課題や、地域の抱える課題の解決につながる非常に重要なアイテムだと思います。さまざまな社会課題について、未来をつくっていく突破口になりうると考えています。

黒崎美穂さん(気候変動・ESGスペシャリスト)

黒崎:「将来世代へのバトン」です。子どもたちが大人になって子どもを持つ頃まで、気候変動は続いていくでしょう。第1回の入札が行われ、これから地域の脱炭素ドミノが起きていくと仮定しますと、洋上風力は主力となり、日本のエネルギー安全保障やエネルギー自給率を強化するだけではなく、気候変動を食い止めるバトンになると思います。