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再生可能エネルギー普及に向けての主役へ 洋上風力発電のインパクト

提供:三菱商事

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左から岡藤裕治さん(三菱商事 エネルギーサービス本部長)、佐藤裕之さん(ウェンティ・ジャパン 社長)、信太孝之さん(銚子市 洋上風力推進室長)、黒崎美穂さん(気候変動・ESGスペシャリスト)

オンラインシンポジウム「朝日地球会議plus 世界はどう動く? COP26グラスゴー気候合意を読む」(朝日新聞社主催)が3月に開催され、エネルギーやビジネス、カーボンニュートラルなどについて専門家や企業の関係者が話し合った。
COP26(第26回気候変動枠組条約締約国会議)では、産業革命の頃からの気温上昇を1.5度に抑えるという目標が確認された。温暖化防止の切り札とされる再生可能エネルギー(再エネ)の中でも、急ピッチで導入が計画されているのが洋上風力発電だ。シンポジウムの第3部「再生可能エネルギーと地域づくり」から、洋上風力発電の現状と未来、地域との関わりについての議論をリポートする。

洋上風力がエネルギー自給率の向上につながる

シンポジウムの冒頭では、パネラーたちが洋上風力に関するそれぞれの取り組みを説明した。

黒崎:再生可能エネルギーを含む脱炭素技術への世界の投資は、2021年に7650億ドルと過去最高を記録しました。国別に見ますと日本は6位で、日本よりも上位の国々はクリーン交通への投資を伸ばした点が特徴的です。
洋上風力の導入量は、2021年に過去最高を記録し、その半分を占める中国は26GWを導入しました。再エネの機器や技術が向上して、発電所のライフサイクルを考慮した均等化発電コスト(発電所の初期投資費用、運転維持費などの費用を、発電所が廃棄されるまの発電量で割ったコスト)は年々下がっています。現在、新しい発電所を建てるのであれば、再生可能エネルギーが最も安い地域は世界の3分の2に増加していますが、日本はまだ石炭火力発電が安い地域にとどまっています。
一方で、企業の再エネに対する需要は世界中で増えています。再エネに積極的な企業は供給網(サプライチェーン)にも自社と同様の基準を求め、再エネの電気を使っていないと取引ができない環境が生まれてきています。このような企業は、電力の使用に関する排出係数が低い場所を望んでおり、再エネを安く調達できる地域に事業所や工場を置き始めています。
これは、地方自治体にとっては大きなチャンスです。再エネのプロジェクトによる企業誘致も行うこともできます。電気とお金の地域循環によって、地域の電力がグリーンになり、地元経済も潤うケースが出てきています。
注目すべきは、洋上風力が日本のエネルギー安全保障や、エネルギーの自給率を高めることにつながっていくということです。今回のウクライナでの戦争は、エネルギー自給率をあらためて見直す機会となっています。地方自治体においては、再エネでエネルギーの自給率を高めるだけでなく、蓄電池をセットで導入することで、レジリエンス(回復力)を高めるところも出てきました。

黒崎美穂さん(気候変動・ESGスペシャリスト)

エネルギーコスト低減・産業創出・地域創生に向けて

岡藤:三菱商事は昨年10月、カーボンニュートラルの実現に向けたロードマップを発表しました。その骨子は、①2030年度までに温室効果ガスの排出量を2020年度比半減、2050年にはネットゼロ(排出量と吸収量の差し引きがゼロ)とにすること。②洋上風力をはじめとする再生可能エネルギーや水素などの次世代エネルギー、安定供給の維持といったエネルギーのトランスフォーメーション(EX)関連の投資を2030年度までに2兆円規模で行うこと。③EXとデジタル技術を活用したDXの一体推進により、社会課題の解決に取り組み、新たな価値を創出しつつ、産業や地域を超えた総合的な取り組みに拡大させていくこと。
その一環として、当社は昨年実施された国内初の一般海域における大型洋上風力発電事業の入札に参加し、秋田県の2海域と千葉県銚子市沖の1海域で、事業者に選定されました。
当社は欧州市場において過去10年にわたり洋上風力発電事業に取り組み、経験・知見の蓄積・内製化と、人材の育成を進めてきました。2020年に子会社化したオランダの総合エネルギー事業会社、Enecoの知見も最大限活用のうえ、長期にわたる事業の健全性を確保しつつ、2028年から30年にかけて順次運転を開始する予定です。
本事業は30年にわたる長期の事業となりますので、三菱商事グループの総力を結集して、「エネルギーコストの低減」「国内関連産業の創出」「地域創生」を同時に実現していきます。エネルギーコストの低減については、エネルギー安全保障の観点でも、貴重な国産エネルギーである再エネを安価かつ安定的に供給することに貢献します。
国内関連産業の創出については、特に地元企業と連携したサプライチェーンを構築し、地域経済への波及効果を目指すとともに、グローバルで勝ち抜けるような日本の産業力の底上げと、競争力の強化の実現に努めます。そして発電事業の枠を超えて、地域の社会課題に向き合い、関係者の皆さまとご相談しながら、地域創生に貢献していくことを目指します。
当社の洋上風力発電事業が、政府の掲げる2050年カーボンニュートラルの実現と再エネの主力電源化、そして日本の産業力強化や地域創生に資するよう、全力で取り組みます。

岡藤裕治さん(三菱商事 エネルギーサービス本部長)

風車部品の供給網を秋田から世界へ

佐藤:風力発電のトップランナーを走る秋田で、ウェンティ・ジャパンは2012年に設立された会社です。風が強いという地域資源を活用して、秋田の経済を活性化しようと、陸上風車で10万kWを超える事業規模まで成長しています。
また、当社は促進区域に指定されていない一般海域での洋上風力の開発をしております。富山県の入善町で、風車3基(計7500kW)を計画しており、近々運転が開始される予定です。
今、秋田県は陸上には313基、64万kWを超える風車が建っていますが、洋上風力は全計画で180万kWを超える規模となります。投資効果は建設だけでも1兆円超とされ、経済波及効果をいかに上げるのかが我々のテーマです。
秋田は既に電力は地産地消を超えて、電力輸出県です。再エネだけで県内の電力需要量の33%をカバーします。洋上風力の導入などが進めば、秋田は再エネだけで地産地消を実現し、なおかつ再エネの輸出県になるとシミュレーションされています。
また、私どもは、地元で部品の製造を中心とした産業を育成しようと、「秋田風作戦」というコンソーシアムを立ち上げました。これまで国内で生産されていなかった風車の部品の製造を、実現する過程にあります。さらに今回、三菱商事グループや国内メーカーを巻き込み、部品の供給網をつくろうと努めています。
世界のカーボンニュートラルを実務面で日本から支える「秋田プライド」を、私たちは目指しています。

佐藤裕之さん(ウェンティ・ジャパン 社長)

オール銚子の体制で地域への還元を目指す

信太:銚子市は、最近では再生可能エネルギーの街として知られています。自治体新電力「銚子電力株式会社」を設立して、再生可能エネルギーの地産地消の取り組みを進めているところです。一部の学校では、実質再エネ100パーセントで電力を供給できています。
銚子では平地でも1年の平均風速が5.7メートル。1日の最大風速が10メートル以上の日が、年間で140日以上もあります。約20年前から陸上の風力発電事業の導入が進み、現在では大型の陸上風車が34基設置されています。洋上ではさらに強い風が安定して吹き、日本初となる着床式の沖合洋上風力発電施設の実証実験機も、銚子市沖に設置されました。
洋上風力発電は、構成部品が数万点に及ぶなど、非常に裾野の広い産業です。洋上風力発電を地場産業として根づかせ、関連産業の誘致や雇用の創出などの経済波及効果を長期間にわたって地元に還元し、地域の活性化に資するよう、関係者が連携してオール銚子の体制で取り組んでいきます。
市は昨年、2050年を目標年次とする「ゼロカーボンシティ銚子」を表明しました。市の全世帯使用量の10倍以上になる洋上風力の電力を活用するとともに、蓄電池の活用や水素など新エネルギーの導入によって、2050年を待たずしてゼロカーボンシティを実現できればと考えています。

信太孝之さん(銚子市 洋上風力推進室長)

日本初の大規模な洋上風力事業の方向性は

2021年12月に三菱商事を中心とするグループが事業者に選定された3つの入札は、洋上風力で事実上初めての大規模な公募事業。発電能力は合計170万kW(およそ原発2基分)で、日本の洋上風力を占うプロジェクトとして注目度も高い。事業を担う企業と地元関係者の立場で、パネラーたちが入札の結果や事業の方向性などについて語った。

黒崎:皆さんの話を伺って、地域に溶け込んだ再エネ事業というのが重要なポイントで、それを既に実現されているのが伝わってきました。安定した電源として、洋上風力が地域に根づいていくといいなと思います。

岡藤:冒頭でも説明しましたが、当社は洋上風力がいち早く立ち上がった欧州の市場において、10年以上にわたって先行して知見を蓄積し、人材を現地で育成してハンズオンで事業経営をするノウハウをためてきました。今回の国内の洋上風力の入札は、それに加えて、一昨年に買収したEnecoの欧州での知見を最大限に活用できたことが非常に大きいと考えています。

佐藤:三菱商事と一緒に事業を行う当事者の立場として言えば、2030年や40年に向けて、入札価格は欧州並みに近づいていると受け止めております。欧州の事業者とのコンペを勝ち抜くという意味でも、違和感はありませんでした。地域共生策などの総合力で評価されたと思っています。

信太:洋上風力の導入にあたり、漁業との共生は絶対条件です。漁業にどんな影響を及ぼすのかの調査や漁業振興策に取り組む必要があると思っており、何年も前から発電事業者と漁業関係者がしっかり話し合っています。
また、洋上風力のメンテナンスの会社を、漁協と商工会議所、市の3者の共同出資で立ち上げました。ノウハウや知見を地元に蓄積し、地場の産業として育てていきます。洋上風力発電関連産業を通じ、地域経済の活性化を図るとともに、若者の雇用を創出することで、少しでも人口減少の抑制につなげたいと思います。