夏休みを過ごす子どもたち。親の目の届かないところで、スマホで情報収集をしているのは、日常的な光景だ。しかし、SNSには闇バイトの勧誘がまん延しているのが社会問題化している。
実際、白昼の銀座の高級時計店強盗事件では、実行犯として高校生を含む10代4人が逮捕された。首謀者は、逮捕される可能性が高いハイリスクな役割を子どもたちにさせている。そして、このような事件に関わり逮捕された子どもたちは一様に言うというのだ。「闇バイトだとは思わなかった」と――。巧妙化する子どもへの闇バイト勧誘の実態を、ヤフーのデータ、警視庁生活安全総務課への取材、識者の指摘から解き明かす。(Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部/監修:多田文明)
- 若年層はSNSなどネットでバイトを探す人が多い
- 闇バイトの指示役は、最初は口が上手で優しい
- 闇バイトに関わったら周囲や警察に相談を
ヤフー調査 若年層はSNSなどでの求人募集になじみが深い
今回、Yahoo!クラウドソーシングで10~60代の男女2000人にアンケートを行った。その結果、SNSやインターネット掲示板で募集しているアルバイトなどの求人に申し込んだ経験があるかについては、全体だと「ある」との回答は18%にとどまったが、10代に絞ると27%に上昇、20代についても25%が「ある」と回答し、若年層では「ある」の割合が大きかった。実に4人に1人の割合で、アルバイトとインターネットが若年層ほど密な関係にあることがわかる。
応募したサイトについては掲示板、Twitter(現・X)が多い。また、闇バイトに該当しそうな求人を見かけた経験も聞いたところ、10代は14%、20代は23%が見かけていた。
検索データから見えた「闇バイト」の背景
「闇金」「稼げる仕事」金銭面で切迫?
(※8月29日、図解内容の一部を修正しました)
「闇バイト」を検索している人は、ほかにどんなキーワードを検索しているのだろうか? ヤフーの検索データで前後15日間の検索ワード推移を見ると、生々しい実態が明らかになる。上記の図に記載のワード以外にも、「闇バイト」を検索する前に「パパ活」「ママ活」など、犯罪になりかねない行為を検索している点から、金銭面で切迫している人が多いことが浮き彫りになる。
ほかにも、「テレグラム」「後払いアプリ」など、中高年にはなじみのない言葉も登場している。
幅広い世代が「今すぐお金が必要」を検索
「闇バイト」と検索する16日前に 「今すぐお金が必要」と検索している人の性別を見てみると、男女ほぼ半々。さらに年代を見てみると、20代と30代が圧倒的に多いことがわかる。そこに40代、50代が続いており、早急に金銭を必要とする人が幅広い世代にいることがうかがえる。
強盗事件のニュースで注目集まる
2022年12月には、海外を拠点に、「ルフィ」と名乗る指示役が海外から犯行を指示していたとされる強盗事件が発生。2023年1月中旬に関与した男が逮捕され、一連の事件に関する報道が相次ぐと「闇バイト」の検索数が急増した。2023年5月には白昼の高級時計店強盗事件が起き、高校生が逮捕され、再び闇バイトに注目が集まった。
警視庁生活安全総務課に聞く、いわゆる「闇バイト」情報の実態
前述の高級時計店強盗事件のように、闇バイトで子どもが逮捕される事例が多く報道されている。暴力団や「半グレ」の指示と見られる事件に関与させられた子どもたちについて、警視庁生活安全総務課に聞いた。
Q. 闇バイトにはどういう経緯で関わってしまうのでしょうか?
警視庁 闇バイトの求人の多くはSNS上に掲載されていますが、大手求人サイトにも掲載されているそうです。募集事例で特徴的なキーワードは以下のようなものです。
これらのほか、「保秘義務を最も重視」「お客様の重要な情報をやりとりするから、メッセージが消えるアプリを使う」など、秘匿性の高いアプリの活用を指示するようなアルバイトは闇バイトの可能性が高いと考えられます。
このような募集情報に安易に応募すると「履歴書の代わりに」「仕事前の身分確認のため」などと、運転免許証やパスポートの写真を要求されます。さらに、言葉巧みに住所や家族構成を聞かれ、犯罪行為をやめようと思っても脅され抜け出すことができなくなります。
Q. 闇バイトに関わってしまった事例を教えてください。
警視庁 闇バイトは「犯罪」です。バイトという表現ですが指示役から、「バックレたら探してそのまま連れ去るから」「家族は誰なのかは知っている」などと脅され、一度、手を出すと使い捨てのコマとして逮捕されるまで何度も犯罪行為をさせられます。以下のような事例があります。
このほか違法風俗店の従業員として働かされることもあるという。
犯罪に巻き込まれないためにはどうしたらよいだろうか。警視庁は、「『1回だけなら大丈夫』などの安易な考えは捨てること」「『高額報酬』等の勧誘文言に疑いを持つこと」「警視庁ウェブサイト等を確認し、いわゆる『闇バイト』の手口(例えば仕事の連絡手段として、シグナルやテレグラムといったメッセージが消えるアプリを使うなど)について調べること」「怪しいと思ったら、すぐに家族や友人、警察に相談すること」を挙げている。
警察相談ダイヤル#9110、ヤング・テレホン・コーナー 03-3580-4970
社会経験のない子どもは脅しやすい――ジャーナリストが見た闇バイトのリアル
詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリストの多田文明さんは、「犯罪グループは社会経験のない子どもを、最初から切り捨てる気で利用する」と指摘する。
Q. さまざまな犯罪の中でも、近年の闇バイトの特異性は?
多田 闇バイトに応募してきた人を犯罪グループの中に入れて、アルバイトのように細かく指示をすることで、素人なのに自分の頭で考えなくても、プロ並みの犯行ができてしまう。だから今まで犯罪に手を染めたことがない人も、「やってみようか」という感覚でできてしまうんです。
Q. なぜ闇バイトが増加している?
多田 やはりコロナ禍は大きいですね。金銭的な事情から、闇バイトに必死に応募する人が多くなりました。企業による雇用調整助成金などの不正受給や持続化給付金詐欺の報道がありましたが、ああした事件が続くと「世の中には悪いやつがいっぱいいるんだ、だから自分が悪いことをやってもいいんだ」と犯罪へのハードルも低くなってしまう。それが犯罪グループの説得の材料にもなるんです。
Q. 闇バイトに巻き込まれないために、子どもはどう注意すべき?
多田 投資詐欺は高度なノウハウがないとできないけど、闇バイトは荷物を運ぶだけで5万円、10万円をもらえると言われる。でも、そんなうまい話はありません。世の中には、わながいっぱい仕掛けられているんです。 若者には、SNSなどで知らない人から「お金を稼げる」という言葉に釣られて気軽に連絡しないように言いたいですね。闇バイトに連絡してしまうと、言葉巧みに誘導されて、犯罪に巻き込まれる可能性があります。犯罪グループは、お金がない相手の心をグッと引きつけるコツをわかっています。
Q. 多田さんが取材で闇バイトのリクルーターと直接話した際の、相手の印象は?
多田 本当に口が上手で、優しいんです。「借金あるの?」と「いくら稼ぎたいの?」は必ず聞かれます。そこからうまく闇バイトに誘導するんです。「詐欺をしても、数パーセントしか捕まらない」など、うその数字も出してきます。
Q. 高級時計店の強盗事件では高校生が逮捕されたが、子どもが利用されるのはなぜ?
多田 犯罪グループは、「未成年なら逮捕されても顔が出ないから」と安心させて相手を利用することもあります。「口座を作れば買い取るよ」と言われても、子どもは名義を貸すことが悪いことだとわからない。見ず知らずの人からお金を受け取って、それを送金することにも、罪の意識がない。 今はスマホ1本あればなんでもできるので、犯罪者は子どもを利用するというわけです。指示に従っているうちは優しい態度で接してきますが、その裏では免許証や学生証などの身分証の写真を送らせ身元をおさえて脅し、犯行を繰り返しさせてきます。子どもは怖くても、どこに相談したらいいのかわからない。社会経験のない子どもは脅しやすいんですよ。
闇バイトで捕まる若者は「トカゲのしっぽ切り」
一度闇バイトに手を染めると、脅されて抜け出すことができなくなるとも言われる。しかし、多田さんは「実際はほとんど追いかけてこないですよ、単なる脅しです」と語る。また、「末端の人間は常に捕まっているので人手不足。だからずっと募集され続ける。最終的には切り捨てられる存在で、まさにトカゲのしっぽ切りです」と話す。
保護者は何ができるのだろうか。多田さんは「『こういう事件で世間のおじいちゃん、おばあちゃんがだまされているんだよ』と親子で話してほしい。詐欺の話をして、「どうしたらいいんだろうね」と話し合っておくことが、最終的に闇バイトに誘われたときに、本人の身を守ることにつながります」と説明する。
「子どもをめぐる課題(#こどもをまもる)」は、Yahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」の一つです。 子どもの安全、子どもを育てる環境の諸問題のために、私たちができることは何か。対策や解説などの情報を発信しています。
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