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パパは「育休よりも定時退社」を 男性の長時間労働、どう改善? #令和に働く

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11月10~23日は「家族の週間」。家族や地域の大切さなどを考える期間だ。
ここ数年で、男性の育児参加は進みつつある。企業で働く男性の育休取得率は2023年度に30.1%まで上昇した。一方で、欧米と比べると男性は長時間労働で、家事育児について女性の負荷が重いままであるなど課題は多い。

Yahoo!ニュースがユーザーにコメント欄で意見を求めたところ、600件超の声が寄せられた。満足に育児できる職場環境が整っていないというパパの悩みや、育休よりも定時退社など中長期的に育児できる体制を求めている現状などが見えてきた。(Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部/監修:柴田悠)

この記事、ざっくりいうと?
  • 男性は長時間労働、女性は家事育児という構造は戦後できて、いまも解消されていない
  • 出生率がより高い諸外国と比べると、日本の男性は長時間労働が続いている
  • 男性の長時間労働を改善するには労働基準法改正等が求められる

1.パパの声「育児で昇進昇給が犠牲」 ママの声「共働きでも平日ほぼワンオペ」

Yahoo!ニュース コメントに集まったパパの声
Yahoo!ニュース コメントに集まったママの声
Yahoo!ニュース コメントに集まったその他の意見

Yahoo!ニュースの「【みんなで考えよう】育児と仕事、パパはどうしている? #令和に働く」(2024年9月30日~10月3日、計661件)には育児の実態についてコメントが寄せられた。パパは「子どもはとても愛おしい」けれど、職場や社会の環境が整わず、育児の希望がかなっていない様子がうかがえた。パパが担えない分の育児はママが背負うことが多いようだ。

2.「男性は長時間労働、女性は家事育児」という構造はなぜできた

満足に育児できる環境を整えるには何が求められるのか。社会学者の柴田悠・京都大大学院教授と一緒に考えたい。

柴田悠・京都大大学院教授

コメント欄では、パパから「子どものために早く退勤したいが帰りづらい」、ママから「一時的な育休ではなく、夫に定時退社してほしい」という声が多かった。日本は、「男性は長時間労働」という構造から抜け出せていない。

「日本の総人口の年齢構成」の推移のグラフ
柴田悠・京都大大学院教授
柴田教授
「男性は長時間労働、女性は家事育児」という構造ができたのは戦後の「人口ボーナス期」です。人口ボーナス期には大量生産が可能で、そのための最適解としてこの構造ができ、1980年代には「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と呼ばれました。そのため、生産年齢人口が減る「人口オーナス期」へと急激に移り変わった後でも、男性の長時間労働による成功体験から抜け出せませんでした。欧米では、女性就業のための保育などの環境整備や、男性が育児に参加するための労働時間短縮やデジタル化が進みましたが、日本では後回しにされてしまったのです。そのまま低成長・物価低迷の「失われた30年」に突入しました。

フルタイム勤務男性の平日の労働時間は減少傾向にはある。しかし、出生率がより高い諸外国と比べると、日本は長時間労働が続いている。
フランスは、出生率がEU内で最も高い。男女格差是正施策が効果をもたらした。オランダ・デンマークも出生率はEU域内上位で、ワークライフバランスに優れている。

3.帰り遅い夫 共働きでも妻が家事育児担う実態

男性の長時間労働は家族の生活にも影響している。コメント欄ではママから「子どもができても夫の働き方は変わらない」「夫の残業にイライラする。平日はほぼワンオペ」という声が寄せられた。

男女別に就業時間の推移を見ると、子育て期にあたる30~40代について、男性は就業時間が増えているのに対し女性は減っている。

2023年にノーベル経済学賞を受賞したクラウディア・ゴールディン氏は、子どもが生まれると妻が労働時間を減らす問題を指摘している。「男性、女性はこうあるべき」というジェンダー規範があるため、働き方を変える選択をするのは圧倒的に女性が多いという。

実際に夫婦はどのように生活しているのだろうか。総務省調査によると、末子の年齢が6歳未満の夫婦の場合、妻の就業形態にかかわらず夫の平均帰宅時刻は妻より遅く、夕食近くになっている。妻がフルタイム勤務であっても、夕方の子どものお迎えや、夕食を準備し子どもに食べさせることは主に妻が担っているのだ。

夫婦の平日の行動時刻のグラフ。夕方以降の家事育児は妻が主に担っていることを示す

この状況について、当事者はどう思っているのだろうか。内閣府委託調査によると、子どもがいる男性は、仕事時間を減らし家事育児時間を増やしたいと思う傾向にある。逆に女性は家事育児の時間を減らしたい傾向にある。

生活時間の使い方の希望を割合で示した表

男性が育児する制度の一つとして育休がある。2023年度の「企業で働く男性の育児休業の取得率」は30.1%で、前年から約13ポイント増えて過去最高となった。ただし、育休の取得期間は、37.7%が2週間未満にとどまっている(2023年度 雇用均等基本調査)。また、育休の取りやすさは業界に左右される。厚労省調査によると、従業員1000⼈超の企業について業種別に⾒ると「⾦融業・保険業」では取得率が80%以上の企業の割合が大きい。一方で「卸売業・⼩売業」や「教育・学習⽀援業」では取得率が20%未満の企業の割合が大きく、育休を取得しづらい様子がうかがえる(男性の育児休業等取得率の公表状況調査)。

4.育児環境を改善するためのポイント

政府は年3.6兆円規模の少子化対策「加速化プラン」を実施している。この施策は子育て世帯向けの支援がメインで、児童手当の拡充や保育所の職員配置改善などを行う。ただし、初婚夫婦が持つ子どもの人数推移は微減程度であり、出生率(※)減の大きな要因は「未婚化」である。

出生率(合計特殊出生率)とは、1人の女性が生涯に産むであろう子どもの数を示し、算出式は「X歳女性の出生数/(X歳未婚女性数+X歳既婚女性数)」
計算構造上、日本では未婚女性の増加が出生率減に大きく影響する。

柴田悠・京都大大学院教授
柴田教授
政府は子育て世帯向け支援を進めつつ、中長期的に「未婚化」対策に取り組むと考えられます。「未婚化」対策のカギは、若者の賃上げと正規雇用の増加です。
しかし、若者の価値観は多様化や個人主義化が進んでいるため、出生率はこれからも下がると思われます。それでも、若者の結婚と出産の希望が100%叶った場合の出生率(希望出生率)は1.6で、実際の出生率は2023年で1.2なので、まだ結婚と出産の希望がかなっていません。その結婚と出産の希望を叶えるために必要なのは「働き方改革」だと考えられます。
出生動向基本調査によると、未婚女性では、理想としては「結婚・出産しつつ仕事を続けたい」という答えと、実際は「仕事と両立は難しいので未婚を選ぶだろう」という答えが、それぞれ最多でした(2021年調査)。「結婚後も男性はどうせ長時間労働で私が家事育児に縛られるから」と、未婚を選んでいる傾向があります。男性も、長時間労働で疲弊したままで家事育児ができない事情があると思います。
こうした国民のモヤモヤや、「育児のために定時退社を」といったニーズはこれまで十分に施策に反映されてきたとはいえません。とはいえ石破首相は所信表明演説で「勤務間インターバル」(勤務者が終業から次の始業まで一定の時間をあけること)の導入に前向きだと明言していたので、欧米のように日本もしっかりと休む時間を設けて健康的・効率的に働く方向になる可能性があります。

男性の長時間労働を改善するためのポイントをまとめた。

「男性の長時間労働を改善する」3つのポイント
  • ①経営側に残業減を促す:労働基準法を改正し残業割増賃金率を欧米並みに引き上げる
  • ②現役管理職の意識改革:「人手不足をチャンス」に働き方改革
  • ③中小企業の労働環境を整える:トップの意識改革が重要
柴田悠・京都大大学院教授
柴田教授

①残業割増賃金率を引き上げ
日本では、月60時間以下の残業割増賃金率は25%ですが、米欧では基本的に50%です。残業代が上がれば、経営側は残業を減らす体制づくりをします。業務のデジタル化も進むでしょう。人事評価も「どれだけ長時間労働したか」ではなく、「時間当たりの生産性」を重視する方向に変わり、長時間労働が減るでしょう。

②働き方改革
「人手不足」の今がチャンスだと思います。男性に長時間労働を求める会社は、今後は人材確保ができなくなります。厚労省の若者への意識調査によると、若年男性の約8割がプライベートと仕事の両立を意識して会社を選択しています。そして、若年男性の8割以上が育休を取得したい、そのうちの4割は3カ月以上取得したいという(「若年層における育児休業等取得に対する意識調査」)。こうした若い男性は今後も増えていくでしょう。そして、管理職が長時間労働だと若い男性が早く帰れないので、管理職にも働き方改革が必要です。

③トップの意識改革
日本では7割が中小企業で働いているので、中小企業の環境が整っていないのは一番の問題です。例えば社員155人のサカタ製作所では、採用難を受けて社長が健康経営に目覚め、働き方について社員と本音で話し合う会議を定期的に開きました。改革の結果、残業は9割減りました。生産性も上がって、売り上げは1.3倍に。残業代削減も相まって、基本給は1.5倍に。男性育休は5年連続100%、取得期間は平均5カ月です。改革前は採用に苦労していたのに、今は全く困らなくなった。その他の成功事例を見ても、共通してトップの意識改革が重要です。

5.育児を強制しない 親も子どもも安心して暮らせる社会に

育休取得率が上がり、女性から男性に対する「育児への期待値」も上がりつつある。一方で、コメント欄では「育児を強制しない価値観も大事だ」「人によって向き不向きがある」という声も挙がった。

柴田悠・京都大大学院教授
柴田教授
とても大事な視点で、育児は社会全体で担うべきです。人類、ホモサピエンスという種は、大脳を大きく発達させる必要があり、それは20代半ばまで続きます。その成長を支えるのは親だけでは難しいので、旧来ホモサピエンスは村全体で育児をしていました。いまの日本では、義務教育前は親だけで育児しなさいという圧力が非常に強いと思います。日本の0~2歳の保育利用率は4割台ですが、フランスや北欧では約6割です。子どもと親が孤立せずに幸せに暮らせるように、保育や伴走型支援などを拡充すべきです。そのように、親だけに育児を押しつけず、また労働者にも長時間労働を押しつけず、多様な働き方や生き方を認め合う社会になれば、子どもを持つ持たないにかかわらず、誰にとっても働きやすく生きやすい、幸福感の高い社会になるのではないでしょうか。

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